とはいえ、これらはまだ「第4の波」の入り口にすぎない。その後半はシンギュラリティ以降であり、そこでは会社組織さえ不要になるだろう。商品のコンセプトだけ考えれば、AIがそれを作って売る最適な方法を探し出し、マーケティングも代行してくれるようになるだろう。
「国」や「会社」の概念もなくなる
それに伴い「企業業績」や「国力」などの考え方もがらりと変わる。「第4の波」における企業形態は、会ったこともない日本のAさん、アメリカのBさん、フィリピンのCさん、アイルランドのDさん、ブラジルのEさん、南アフリカのFさんがサイバースペースで同じプロジェクトに参加・遂行することが普通になる。
また、サイバー環境が良くて規制が少ない国──たとえば前述したエストニアには「電子国民」という制度があり、外国人でも一定の条件を満たせば、電子IDカードが付与される。そうすると日本にいながら容易にエストニアで会社を設立することが可能になり、世界中の優秀な人材と最適地をサイバーで活用しながら商品を企画・製造・販売することができるので、もはやどの国の貿易統計がプラスかマイナスか、ということも意味がなくなる。
まだIT機器が普及していなかった時代に「第3の波」の到来を“予言”した未来学者トフラー氏の慧眼、先見の明は素晴らしかった。しかし、このようなAI・スマホ社会の出現までは知らずに亡くなった。いま目の前にある「第4の波」は「第3の波」とは全く次元の違う世界であり、すべての人間がサイバー化する。そして、その染色体が入り込んだ人間と企業が世の中を制するのだ。
※大前研一『第4の波 大前流「21世紀型経済理論」』より一部抜粋・再構成