つまり、もしトランプ氏が中国製品などに高い関税をかけ、いろいろなものをアメリカ国内で作るようにしたら、アメリカの物価はとどまるところを知らずに上がり続け、コストプッシュインフレになって生活費が跳ね上がるのは火を見るよりも明らかなのだ。そうなれば、トランプ氏は1期4年で葬り去られる。葬り去られない唯一の方法は、ただ言い続けるだけで何も実行しないことだが、その場合は4年もたないだろう。
前号で、今回の大統領選挙は白人保守層が優勢な“内陸合衆国(United States of Inland)”と、様々な人種・民族で構成されているリベラルな“沿岸合衆国(United States of Coastal)”の対決だったと書いた。USA(United States of America)ではなくDSA(Divided States of America)になったわけだが、実はすでに勝負はついている。
“沿岸合衆国”の人々は、トランプ勝利でもケロッとしていると思う。彼らは世界中から優秀な人材を呼び込み、ICTや金融、通信などの分野で世界最強のビジネスを作っているので、誰が大統領になってもほとんど影響を受けないからである。トランプ氏が公約を実行した場合に悪性インフレで返り血を浴びるのは、競争力のない“内陸合衆国”の人々なのである。
かつて私は、「紙で投票する選挙は国内優先、財布で投票する選挙はグローバル化優先になる」と書いたが、実体経済はグローバル化の方向に一方的に進むしかなく、その流れを止められた政治家はいない。
トランプ氏はFRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長を任期途中で交代させる意向も表明している。いま為替は円安ドル高が進んでいるが、トランプ氏は「ドル高は市場と貿易に悪影響を及ぼし、金利の上昇はアメリカの利払い費用が増大する」と言っている。