多くの家族の相続において、遺産に占める価値が大きいのは不動産だが、実はそれが“負動産”になってしまうこともある。親から受け継ぐ不動産は、ありがたい“財産”になるはずだと信じている人は多いが、そうとは限らないのだ。
長野県出身の60代の姉妹は、他界した親から実家を相続した。元々は祖父母が建てた家で、東京に住む姉妹とは縁が薄かったが、市街地にあるため「良い家だから有効活用できるだろう」と考え、フルリフォームして貸し出すことにした。内装や玄関、台所からバス・トイレまで一新し、総工費は予定を上回る600万円。だが、いざ貸し出そうとすると不動産業者はこう言い放った。
「この地域はみんな持ち家で、家を借りる人はいません。リフォームしても元が古い家なので、売却も難しいでしょう」
姉が肩を落として言う。
「新しくすれば大丈夫とたかを括り、甘く見ていた。あまりのショックにリフォームに前向きだった私と慎重だった妹は大げんか。今は600万円の費用をどう回収するか、途方に暮れています」
超高齢化とともに死亡数が増加し、日本の相続は増え続けている。
1983年に3万9000件だった国内の相続税課税件数は2019年に11万5000件と約3倍に。また相続税の課税対象に占める不動産の割合が増し、国税庁の「相続財産金額構成比」では土地、家屋を合わせた不動産が全体の4割を占める。
そうしたなかで不動産の「二極化」も進む。大都市圏のマンション価格が高騰する一方、総務省の「住宅・土地統計調査」(2018年)によると、全国の空き家は約848万戸に膨れ上がっている。
本来は財産であるはずの不動産が、一部では重い負担となる“負動産”に姿を変えているのだ。『負動産地獄』の著者でオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏が語る。
「少子高齢化が進む日本でかつての土地神話は終焉し、今後は価値が暴落した『負動産』を相続するケースがさらに増えるはずです。この問題を甘く考えていると、“売れない”“貸せない”“自分は住まない”という三重苦に苦しみ、相続後に税金や費用増加で首が回らなくなる恐れがあります」
冒頭の姉妹も“負動産”に苦しむ一例だが、決して他人事ではない。
※週刊ポスト2023年3月31日号