一方で、近年のトップ人事のトレンドとなっているのが、最高財務責任者(CFO)を務めた幹部が起用されるケースだ。4月1日からソニーグループの「新社長」に就く十時裕樹氏(現・代表執行役副社長兼CFO)もそのうちの一人。2012~2018年に代表執行役社長兼CEOを務めた平井一夫氏の下で、CFOとして同社の復活を支えたのが吉田憲一郎氏(現・代表執行役会長兼社長CEO)であり、平井氏の後継者になった吉田氏のもとでCFOを担ったのが十時氏である。
同社は2021年4月に社名を「ソニーグループ」に変更し、エレクトロニクス、半導体、ゲーム、音楽、映画、金融の 6事業の連携を強化する経営方針を示した。十時氏も今年2月2日の記者会見で、新たな経営体制のもと「成長にこだわる。事業ポートフォリオを最適な形にしていく」と意気込みを語った。CFOは経営管理における管理会計だけでなく、対外的に説明責任を果たさなくてはならない財務会計のプロとしての役割も求められる。
「2023年3月期の連結業績予想では前期比減とはなるものの、純利益8700億円(前期比1%減)、営業利益も1兆1000億円(同2%減)を見込んでいます。半導体(イメージセンサー)やホンダと組んだEV(自動車)事業への参入など、大型投資を必要とするこれらの事業が稼ぎ頭になってくる可能性があります。だからこそ、今のソニーグループにとっては、大きな資金の流れを把握、管理できるトップが必要なのです。十時氏は社長に就任する4月以降もCFOを兼任します。ソニー銀行の創業に関わるなど“社内起業家”としての実績も十分な経営者として、期待は大きいです」(長田氏)
カシオの「68歳新社長」は“シニアの星”
今年1月の人事になるが、資生堂の藤原憲太郎常務が代表取締役社長COO(最高執行責任者)に昇格した(1月1日付)。実に9年ぶりの社長交代だ。同社は、2023年12月期の連結純利益が280億円(前期比約18%減)となる見通しで、2期連続の最終減益を見込んでいる。コロナ禍のマスク定着による化粧品の需要減などがマイナス作用となってきたが、新体制下では巻き返しを期す。
「資生堂の藤原氏は、グローバルな舞台で活躍してきた人材で、特に同社の中国事業を地域別で最大規模に成長させた実績があります。新型コロナウイルスの感染拡大で中国市場は落ち込みましたが、今後はアフターコロナに向けて回復が期待できます。また、インバウンド需要が回復軌道に乗ることで国内売り上げの復調も見込めます」(長田氏)
オムロンも約12年ぶりの経営トップ交代となり、4月1日付で辻永順太執行役員常務が社長に昇格する。また、6月の定時株主総会後に山田義仁社長が会長に就任する予定で、立石文雄会長は、取締役を退いて名誉顧問となる見通しだ。それによって、同社から創業家出身の取締役が初めて姿を消すことになる。
「ファミリービジネスの創業家が経営を離れた後も持続的成長を遂げている企業の例は少なくありません。オムロンはコロナで亡くなられた立石義雄・元会長が社長に就任して以来、創業者の立石一真氏の『企業は社会の公器』であるという企業(経営)理念を浸透させました。『企業理念さえ遵守すれば、トップは創業家出身者でなくてもいい』と強調していました。2011年に49歳で立石義雄氏の後任として社長に就任した山田義仁(次期会長)が、投下資本利益率(ROIC)に基づく経営で既存事業を安定させるとともに、新事業の可能性を探索してきました。辻永氏は2年間でFA(ファクトリーオートメーション)の売り上げを1.5倍にしたという実績を残しての新社長登板です。人を動かすのが上手、との評価も。新社長の突進力が期待されます」(長田氏)