限られた資源をどう配分していくか
──本の中では、「コスパ(コストパフォーマンス)」「リスパ(リスクパフォーマンス)」「タイパ(タイムパフォーマンス)」を最適化して、3つの資本を合理的に大きくしていこうと説いています。
橘:神は無限のリソース(資源)をもっているので選択の必要はありませんが、投入できる資源に制約のある人間は、つねに「トレードオフ」に直面しています。あることを選択すると、そのために資源を消費するので、別の選択をする機会を失ってしまう。人生の問題は、つきつめれば、この資源制約に集約されるでしょう。
人類史の大半でもっとも重要な資源は食料でしたが、近代以降、それはお金に変わりました。とはいえ、個人資産20兆円のイーロン・マスクを見ればわかるように、お金の資源制約は、お金がたくさんあれば解決してしまいます。お金持ちの幸福度が高い(ひとつの)理由は、なにを買い、なにを我慢するかのトレードオフから自由になったことです。
それに対して、時間は誰にとっても1日24時間しかなく、どれほどの大富豪でも増やすことができない希少な資源です。仕事に頑張れば、その分だけ、プライベートに費やす時間は少なくなる。恋人というのは、定義上、プライベートの時間をもっとも多く投入している個人です。別の誰かとつき合おうと思えば、そこにも時間資源を投入しなければならないので、たちまち破綻してしまいます。そう考えれば、「とてつもなくゆたかな」社会では、お金よりも時間が貴重になることがわかります。
タイパを上げる効果的な方法は、人生の優勢順位を決めて、低いものは徹底して定型化することです。スティーブ・ジョブズは、いつもイッセイミヤケの黒のハイネックのカットソーかTシャツ、ジーンズにスニーカーという格好でしたが、これは彼にとって、ファッションの優先順位が低かったからです。毎日なにを着るかを選択するコストを最小化したわけですが、それが逆に「ジョブズのファッション」として評価を高めたというのも興味深いです。
知識社会とは、合理的に判断し、行動することで大きな優位性が得られるように構成されている社会です。だからこそ、選択のコストを下げ、資源を最適に配分し、3つの資本を合理的に設計することが重要です。これは汎用性のある“成功法則”なので、きっとみなさんの役に立つでしょう。
【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。その他の著書に『上級国民/下級国民』『無理ゲー社会』など多数。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。