親が主導する
生前会議の準備が整ったら開催を呼びかける。タックス・アイズ代表社員で税理士の五十嵐明彦氏が指摘する。
「基本的に誰に何を相続させるかの決定権は、財産を持っている人にあります。そのため、子供からは呼びかけにくいので親が開催を呼びかけるのがいいでしょう。そして、参加者は法定相続人に絞るのがベターです。息子の妻など相続の権利がない人まで同席させると、まとまる話もまとまらなくなります」
家族が離れて暮らしている場合、参加できない人への配慮も忘れてはならない。
「遠方で参加できない人には、インターネットなどでの参加や議事録を残すことを検討しましょう。そして、司会進行は基本的に会議を呼びかけた“言い出しっぺ”が務めます。その際、堅苦しくならないようにオープンに話しかけることが重要です」(前出・古尾谷氏)
具体的には何をどう話していけばいいのか。五十嵐氏が言う。
「生前会議は親が主導することが重要です。財産の所有者である親が何を考え、財産をどう分けたいかという自分の考えを生きているうちに伝えられることが生前会議のメリットのひとつです。その場で財産の分け方を子供たちと決めていくというより、親が考えておいた思いを伝えたほうがもめにくい。
まずは自分の気持ちを伝え、参加者から意見を募るのがいいでしょう。そうしないと参加者の主張の応酬が始まり、徐々に雰囲気が険悪になってまとまらない恐れがあります。親が主導権を握って進めることが、結果的にもめごとを起こさせないのです」
親の意向ははっきりと具体的に伝えてみることが大事だという。
「財産が不動産だけなら、『長男に不動産を渡すから、長男は次男にこれだけ払ってほしい』などと親の意向を伝える。遺言書があれば、相続人はその通りに相続することになるケースが多いのですが、突然遺言書を見せられても納得いかない場合もあります。生前会議はその合意を早いうちにできるのです」(同前)
とはいえ、参加者の意見が一致せず話し合いが難航することは想定しておく。全員一致でまとまらなくても心配することはない。
「生前会議の目的はあくまで家族の意見を聞き、最終的に遺言書に落とし込むことです。意見が一致しなくても、『長男は納得したけど、次男はここに納得してないな』という結果を踏まえて、全員がより納得できるような遺言書にしていけばいい」(古尾谷氏)
生前会議は一度きりでなくても構わない。何度も開催すると意見がまとまることもあるので、定期的に行なってもいい。
何より重要なのは、親が元気なうちに行なうことだ。親が認知症になれば会議の開催も難しくなる。早めの検討が家族をもめごとから守る。
イラスト/河南好美
※週刊ポスト2023年4月21日号