相続を巡る家族のもめごとは誰にでも起こりうる。財産が少なくても、しっかりと遺言書を準備していても、家族間で合意形成ができていなければ、わだかまりが残りかねない。望ましいのは問題が複雑化する前に、家族の意向をまとめておくことだ。
事前に家族間で合意形成のために開催するとよいのが「生前会議」である。どのように進めていくものなのか。相続サポートセンター代表で税理士の古尾谷裕昭氏が語る。
「生前会議の目的は、話し合いをもとにみんなが納得できる遺言書を作成することです。死後に財産を目の前にしてしまうと、たとえ遺言書があったとしても相続人が納得いかなければ“権利の主張”をしがちです。一方、生前なら冷静に話し合いをして合意できる可能性が高い。会議の前に、『相続財産の棚卸し』『遺産の分け方』『その分け方の理由』を親がまとめて整理しておけるとよい」
財産の棚卸しは、「不動産」「預貯金・現金」「有価証券」「生命保険」など、全財産を漏れなく「財産目録」にまとめる。その際、忘れてはいけないのが「負の財産」を含めることだ。不動産に詳しい税理士の植崎紳矢氏が語る。
「クレジットカードの借り入れや個人間の借金、車のローンなど、マイナスの資産を隠していると相続時にトラブルになりやすいので、必ず記入しましょう」
不動産は前もって確認しておく事項や、準備しておきたい書類がある。
「不動産の名義、権利関係を確認しておきましょう。祖父の代などから名義を変更していない土地は相続人が多数に及んで売却できないといったもめごとに発展しやすいので、名義変更は済ませておく。また、『固定資産税の課税明細書』『登記簿謄本』などを揃えておくと、権利関係の証明や不動産の評価額を把握できます」(同前)
前出の古尾谷氏は「不動産の評価方法にも気を配りたい」と語る。
「相続税を計算するうえでは、土地の評価額は国税庁が公示している『路線価』で計算しますが、生前会議では『実勢価格(市場価格)』で話し合うのがいいでしょう。路線価は実勢価格の8割ほどに設定されており、のちに“思ったよりも高価な土地じゃないか”といった不満を言い出す人が出ないように実勢価格で進めるのが望ましい。地元の不動産業者に見積もりを頼むと無料でやってくれます」
そのうえで、相続人の経済状況や将来の見通しなども大まかに把握しておくと親が遺産配分を検討しやすくなる。