“財界総理”と呼ばれることもある経団連会長の発言が、波紋を広げることになりそうだ。十倉雅和・経団連会長のインタビューが4月25日付の日本経済新聞に掲載されたが、そこで岸田政権が進める「異次元の少子化対策」の財源に関して、「消費税も当然議論の対象になってくる」と述べている。これまで政府与党の幹部の発言などからは、社会保険料から拠出する考えなどが示唆されていたが、十倉氏の発言は別の方向性の議論を喚起することになるかもしれない。
岸田政権は3月31日に「異次元の少子化対策」の叩き台を公表し、児童手当の支給対象の拡大などの施策が掲げられたが、裏付けとなる財源ははっきりとしていない。6月に策定する「骨太の方針」で、子ども・子育て予算を倍増させるうえでの大枠を示す考えだとされている。
これまで、少子化対策の財源については、自民党の茂木敏充幹事長がテレビ番組で「少なくとも増税、国債、これは今、考えていない」と述べるなどしてきた。財源としては税金ではなく社会保険料が活用される可能性が報じられ、“本命視”されてきた経緯がある。
しかし、十倉氏は日経新聞のインタビューのなかで、少子化対策の財源について消費税を含めた税を選択肢とすべき、という考えを明かし、その理由について次のように語っている。
「子育ては社会全体の共通の課題で、財源についても広く薄く集めなければいけない」
「今の段階でこれだけがいいとは言わないが、消費税はもともと社会保障4経費(※編注:年金、医療、介護、子ども・子育て支援)に充てる前提で導入している。中長期的なレンジでは消費税も当然議論の対象になってくる」(日経新聞・2023年4月25日付)
そして、社会保険料を活用する案については、「賃上げ分を全て社会保障に回されると賃上げの実感を得られない」と否定的な見解を示した。
たしかに、会社員の場合は毎月の給与から社会保険料が天引きされている。労使負担を合計すると、健康保険料、介護保険料、年金保険料の合計は標準報酬月額の約30%にのぼる。仮に社会保険料の天引きがさらに増えれば、企業が賃上げをしてもその分が“吸収”されてしまう、というのが十倉氏の考えだと読み取れる。
また、社会保険料の場合、年金・医療などもともと現役世代が高齢世代を支える構造があるため、少子化対策の財源とする場合に、現役世代に負担が偏るという懸念もあるだろう。その点、消費税であれば幅広い世代が負担することになるため、現役世代が過大な負担にならないというロジックだ。