値上げすれば、部数急減に拍車がかかる一方、見送れば、用紙代などの経費増を吸収できない。進むも地獄、留まるも地獄。朝日経営陣にすれば「苦渋の決断」だったかもしれませんが、読者からは読売の「値上げしない宣言」と比較されて「安易な値上げ」と受けとられるかもしれません。
朝日は2021年7月の値上げで昨年の決算が黒字になりましたが、今回の値上げについて経営陣は、どこまで成算ありと考えているのでしょうか。朝日と読売、両社の経営判断の差は今後、大きく響いてくるでしょう。
デジタル料金の“改悪”も乱暴すぎた
朝日新聞は、社運をかけているデジタルでも読者の怒りを買ったことがありました。2021年6月8日、「シンプルコースのサービス内容変更および利用規約改定のお知らせ」と題した通知が突然、契約者に配信されました。〈『シンプルコース』(月額980円)は、2021年9月8日(水)より、名称を『ベーシックコース』に改め、サービス内容を変更しました。(中略)閲覧本数の上限を月300本から50本に変更しました〉というのです。
「シンプルコース」の契約者は閲覧可能本数が6分の1に激減してしまいます。大幅なサービスダウンですが、「朝日新聞デジタルでは創刊10周年を迎え、サービスの全面的な見直しを行っています。今回の変更もその一環です。何卒ご理解を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます」と但し書きがあるだけで、お詫びのひと言もありません。
実はこれと同時に閲覧本数に制限のない月額1980円の「スタンダードコース」を新設しており、この新設コースへの誘導が狙いだったのでしょう。利用者を不利な状態に追い込んで目的を達しようとする。これでは、健康保険証を廃してマイナンバーカードに移行させようとする政府のやり方と、そう変わりません。
「実質値上げのトリックではないか」と、同コースを契約している友人が腹を立てていましたが、朝日新聞はその2日後に新聞本紙の大幅値上げを発表しており、デジタル料金の“改悪”はその陰に隠れた形で、大きな話題になりませんでした。