逸ノ城の「電撃引退」のタイミングが、力士たちの収入を大きく左右している──。関脇・霧馬山が大関取りに挑む大相撲5月場所は、5月14日に初日を迎える。そして、5月場所を戦う力士たちにとっては、5月4日に引退会見を行なった湊部屋の逸ノ城の“影響”も決して小さくない。
逸ノ城は“モンゴルの怪物”と呼ばれ、実業団横綱として幕下15枚目格付出で初土俵を踏むと、史上2位タイの4場所での新入幕を果たし、幕内で優勝争いにもからんで相撲ファンを驚かせる逸材だった。5月場所の番付発表(5月1日)まで済んだタイミングでの異例の引退劇の裏には、複雑な事情があったようだ。後援会関係者はこう話す。
「昨年11月に発覚したおかみさんへの暴力問題は不問となったが、新型コロナ感染対策のガイドライン違反で今年の1月場所は出場停止処分となった。3月場所では復活の十両優勝を飾ったが、湊親方(元前頭・湊富士)との確執は改善されなかった。引退の原因は腰痛の深刻化と発表されているが、角界における年寄株取得を巡る複雑な慣習を逸ノ城が理解できなかったことなどを巡る不信感も背景にあったとされ、結果、本人の素行不良もあっために歩み寄れなかった。そうした経緯があるため、断髪式も行なわれないとみられています」
突然の引退発表に「本当に腰痛が原因なら3月場所の直後に引退表明してほしかった」という関係者の声も聞こえてくる。逸ノ城が5月場所の番付編成会議までに引退を表明していれば、今場所の番付が大きく変わっていたからだという。どういうことか。
3月場所に東十両3枚目で優勝した逸ノ城は西前頭13枚目に昇進し、朝乃山(東前頭14枚目)とともに再入幕を果たしている。仮に逸ノ城が5月場所の番付編成前の引退表明をしていたら、状況は大きく変わっていたはずだと協会関係者は言う。
「5月場所で東十両筆頭に留まった武隈部屋の豪ノ山が、逸ノ城の代わりに新入幕となっていた。昨年2月に創設されたばかりの部屋で初の幕内力士の誕生だったはずだ。その違いは“収入面”だけを見ても、かなり大きいですよ。
豪ノ山にとっては、新入幕となれば年6回、場所ごとに支給されるボーナス(力士褒賞金)の基準となる『持ち給金』が十両の40円から60円(実際には4000倍した額)に引き上げられる。給料も十両の月110万円から月140万円にアップするため、1場所幕内にいるだけでも2か月分の給料が保障されるので、十両とは収入が60万円も変わってくるわけです」