十両昇進を逃した「2人の力士」
これは幕内と十両との違いだが、十両と幕下とではさらに差が大きい。幕下以下の力士は養成員と呼ばれ、給料は出ないかたちになっている。年6回開催される場所ごとに場所手当が支払われ、幕下は2か月に1回、16万5000円が支給される。十両の給料が月110万円、2か月で220万円なので、十両14枚目と幕下筆頭とでは番付1枚違うだけで収入に200万円以上の差が生じるのだ。
3月場所で東幕下2枚目だった藤青雲(藤島部屋)、西幕下2枚目だった千代栄(九重部屋)、東幕下3枚目だった時疾風(時津風部屋)の3人が5月場所では十両に昇進したが、逸ノ城が番付に載らなかったとすれば、「新十両があと2人誕生したはずだ」(若手親方)という。
「3月場所は十両下位で2ケタ黒星の大負けをした力士が多く、十両と幕下では少なくとも4人の入れ替えがあると見られていた。しかし、4人目に該当しそうだったのが東十両11枚目で5勝10敗の志摩ノ海(木瀬部屋)と東十両9枚目で4勝11敗の對馬洋(境川部屋)で、どちらかを残し、どちらかを落とすかという判断ができなかった。そのため2人とも十両に残っています。
加えて幕下でも、東幕下6枚目で6勝した紫雷(木瀬部屋)と西幕下3枚目で4勝の川副(宮城野部屋)が十両に昇進すると見られていたが、どちらかを上げて、どちらかを上げないということができなかった。そのため3人の入れ替えとなったが、逸ノ城が引退して十両昇進があと1枠増えていれば志摩ノ海と對馬洋が幕下に転落し、紫雷と川副が新十両にするという5人の入れ替えが可能になっていたと考えられるのです」
十両に昇進して関取になれば、化粧まわしや新しい締め込み、明け荷を準備しなければならないが、それに十分足る祝儀が集まる。所属部屋でも生活するのが大部屋から個室に移り、付け人があてがわれる。稽古場では白い廻しをつけ、大銀杏も結える。
番付1枚で天国と地獄、生活が一変する大相撲の世界。「番付は生き物」とも言われ、他の力士の成績との兼ね合いで決まるとはいえ、逸ノ城の引退タイミング次第で得られるはずだった利益を“逸した”力士たちは、「せめて3月場所直後に引退表明してほしかった」というのが本音ではないだろうか。(了)