岸田政権は今月中にも経済財政運営の指針「骨太の方針」を取りまとめる予定だ。その柱となるのが、岸田文雄首相が「異次元の」と冠を付けた少子化対策・子育て支援策だが、ベストセラー『未来の年表』シリーズの著者で、人口減少問題に詳しいジャーナリストの河合雅司氏によると、現在俎上に載せられている政策の数々はいずれも的外れで、逆効果にもなりかねないという。どういうことか? 河合氏が解説する。
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岸田政権が目玉政策として掲げる「異次元の少子化対策」の概要が明らかになるにつれて、子育て世代に大きな失望と反発が広がっている。「異次元」と程遠い政策が並んでいることもあるが、それ以前の問題としてあまりに的外れだからだ。
まず、政策のターゲットが子育て世帯に偏っている。
現金給付は国民にアピールしやすいということで児童手当の拡充に力点を置いたのだろうが、従来の方針をあっさり転換して所得制限をなくすという。しかも対象年齢を高校生にまで延長して月額1万円を支給し、3歳から小学生までの第3子以降は倍増の月額3万円にするというのだ。さらには、教育費の負担軽減や子どもの医療費の無償化、幼児教育や保育の質の向上、育休給付率の引き上げなどが浮上している。
だが、こうした施策では結婚・出産に至らない人たちの手助けとならない。飛行機に乗りたくても乗れずに困っている人が大勢いるのに、機内サービスの充実ばかりを図っているようなものである。
「悪い冗談」としか思えない政策の数々
ターゲットの偏り以上に失望と反発を呼んでいるのが、財源確保策である。“当事者”である子育て世帯や若者にも負担を求めているのだ。本末転倒の典型例である。
医療や介護の効率化などによる社会保障改革で0.9~1.1兆円捻出する方向で、それでも不足する分は2026年にも公的医療保険料など社会保険料に上乗せ徴収する「支援金制度」創設が検討されているという。
給付額が増えたとしても、それと引き換えに負担も増えるのであれば素直に喜べない。低所得で結婚や妊娠を諦めている人たちにとっては、余裕のない家計がさらに苦しくなり、結婚や妊娠から遠ざかる人がますます増えるだろう。低所得の若者の負担を増やして、タワマンの上層階に住めるような裕福な世帯の家計を支援するというのは悪い冗談としか思えない。
社会保険料の上乗せ徴収額は、単純計算すれば国民1人当たり500円程度となるが、社会保障改革がうまく進まなければこんな額では収まらない。高齢者の増加で医療費や介護費は自然増も見込まれており、近い将来、さらなる引き上げとなるだろう。