子育てが終われば負担だけが残る
さらに驚くのが、児童手当の高校生への適用拡大と引き換えに扶養控除の廃止を検討していることだ。鈴木俊一財務相は記者会見で、児童手当を高校生まで拡充する場合には16~18歳に適用される扶養控除を「整理する必要がある」と述べている。
現行制度では16~18歳の子どもを扶養する場合、所得額から1人38万円が控除されているが、2010年に子ども手当が創設された際には16歳未満の年少扶養控除を廃止された経緯がある。
仮に廃止となれば、子育て世帯は所得税などが増える。児童手当が増額されたとしても差し引きすれば実質的に手にできる額はかなり圧縮される。それどころか、児童手当の増額分を負担増分が上回る世帯まで出てくる。これでは何のための児童手当の拡充か分からない。「子育て罰」との批判が出ているのも当然だ。
実は、子育て世帯への負担増はこれにとどまらない。子どもは成長していくので、子育て世帯がいつまでも子育てをしているわけではない。一方で社会保険料の上乗せ負担は生涯続く生涯負担として考えたなら、子育て期間中に児童手当の受取額が多少増えるぐらいでは割が合わない。
SNSでは「こんな対策ならやってもらう必要はない」との怒りの声が相次いでいる。各種世論調査でも反対意見は強い。こうした声に耳を傾けざるを得なくなったのか、自民党の茂木敏充幹事長は「まずは歳出改革を徹底していくことが重要だ。現時点で、社会保険料の引き上げとか積み増しは考えていない」と軌道修正を図り始めた。
だが、社会保障の歳出改革は簡単ではない。他の社会保障サービスを無理に削ればどこかにしわ寄せが行く。
出生数が減り続ける「不都合な真実」
ここまで見てきたように、かなり杜撰な制度設計となっているが、その前段として「異次元の少子化対策」が的外れと言わざるを得ないのは政策効果をどこに求めているのかが不明な点だ。
岸田首相は繰り返し「少子化トレンド反転に向けた政策抜本強化の取り組みの方向性を明らかにしていく」と述べているが、これは意気込みを語っているに過ぎない。
もはや日本の出生数の減少は止められない。それは、出生数減少の真の原因は、これまでの子育て支援策が脆弱だったからではなく、出産期(25~39歳)の女性の減少だからだ。
「異次元の対策」を講じて結婚へのサポートや子育て支援を手厚くすれば、合計特殊出生率を幾分かは上昇させることは可能かもしれないが、出生数のほうは減り続ける。
この不都合な真実は「過去の数字」が証明している。合計特殊出生率は2005年の1.26を最低として、2015年は1.45まで回復した。だが、両年の出生数といえば106万2530人から100万5721人へと減った。
なぜこうしたことが起きたかと言えば、この間に25~39歳の日本人女性数が17.7%も少なくなっていたためだ。