現代日本で、性交渉未経験の男性が増加している。東京大学特任研究員の坂元晴香さんらが2022年7月に20~49才の男女8000人に行ったオンライン調査では、20代女性の未経験率が29.7%である一方、男性は43%が性交渉の体験を持たないという結果になっている。
スウェーデン・カロリンスカ研究所の医師である上田ピーターさんの専門は主に糖尿病や循環器疾患の疫学研究だが、2017年に英BBCで日本人男性の未経験率が驚異的に高いとのニュースが報じられたのを見て、「日本独自の未経験男性」を意味する「童貞」に興味を持ち、実際にフィールドワークなどを行っている。未経験者が増え続けた先に、どんな社会が訪れるのか。ピーターさんがまず言及するのは「少子化」の進行だ。
「性交渉をしている人たちが必ずしも子供を産むとは限りませんが、性交渉をしないと子供はできないので、未経験率の上昇は少子化に直結するといえるでしょう」(ピーターさん)
少子化の進行は、やがて人口減少をもたらす。一般社団法人日本家族計画協会会長で医師の北村邦夫さんはその弊害を指摘する。
「若い世代が結婚に魅力を感じず、経済的不安が拍車をかけ、人とのコミュニケーションを図ることを面倒と感じるなか、童貞が増えて出生率が低下すれば、日本は人口減少の一途をたどります。すると年金や医療、介護といった社会保障制度を維持することが難しくなり、老後の資金を自分で賄わないといけなくなる。労働力が不足して、移民政策も必要になるでしょう」
他方、『バカと無知』『無理ゲー社会』など数々のベストセラーがある作家の橘玲さんは究極の「ソロ社会」が訪れると予言する。
「少子化も人口減もいずれテクノロジーが解決するでしょう。逆にいえば、もはやそれしか道はない。実際、いまものすごい勢いでセックスロボットと人工子宮の開発が進んでいます。それらが普及したとき、性愛は機械やヴァーチャルに置き換えられ、人工授精と人工子宮で人間を介さずに子供が生まれるようになります。究極的には男性が自分の遺伝子から受精卵をつくって自分のクローンを産むことも可能になるでしょう。
さらに、性染色体だけを編集して、男性がクローンの女児を持つようになるかもしれない。ユートピアとディストピアが同時に訪れるそんな『ユーディストピア』では、もはや童貞という概念すら消失するのではないでしょうか」