輸入量の大きい米国の動向
懸念されるのは他国の動きである。中でも輸入量の大きい米国の動向が気がかりだ。もちろん、米国政府が日本の水産物輸入を禁止したりするようなことはないだろう。
しかし、今年1-6月における日本の農林水産物・食品の輸出額をみると、全体では9.6%増加しているが、米国向け輸出は減少しており、減少額は国別で最大、83億円に及ぶ(農林水産省、輸出・国際局より、以下同様)。日本酒、練り製品に加え、ホタテ貝の減少が大きい。ちなみに、意外にも、香港向け輸出は236億円、中国向けは194億円も増加している。
農林水産省輸出・国際局の資料では「昨年下半期以降、高インフレによる消費減退の影響を受けた」と減少理由を説明しているが、米国消費者の食品の安全に対する意識は高い。米国政府が“処理水は安全基準を満たしている”とする日本の立場に理解を示しても、“米国の消費者がどう考えるか”はまた別の問題だ。
日本政府は水産事業者向けに200億円規模の支援策を検討しているようだが、予想される長期的な外需の減少を補うにはどうしても内需の拡大を図る必要がある。日本の消費者が“処理水は安全だ”と考えるのであれば、ホタテなどの海産物の摂取頻度を大きく高めることで、苦境にあえぐ業者を少しでも支援したいところだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。