学力と遺伝についての研究結果が近年、話題になっている。果たして、学力は遺伝による影響がどこまであるのだろうか? 『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)などの著書があるノンフィクションライターの杉浦由美子氏がレポートする「中学受験家庭を悩ませる、遺伝と学力の関係」の第2回。【全6回。第1回から読む】
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遺伝が学力に影響をする――これは昔からみな、薄々と感じていたことであろう。それが現在、公に語られるようになってきている。
行動遺伝学者の慶應義塾大学・安藤寿康名誉教授のベストセラー『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SBクリエイティブ)の中の遺伝率に関するデータでは、遺伝が与える影響として、学業成績(9歳時)は国語が約8割、算数や理科も8割近く、そして、才能は音楽は9割以上が遺伝の影響があることを論じている。このデータはウェブメディアの記事に引用され、それをスクリーンショットしたものがTwitter(現・X)などで拡散され、「学力は遺伝で決まる」という印象を与えている。
一卵性双生児で成績の差が出るのは「数学と物理」
しかし、安藤教授の他のデータを見ると違う側面が見えてくる。『哲學』(2023年3月号・教育学特集号・三田哲学会)の中で掲載されている安藤教授のデータでは、学業成績の遺伝率は5割強で約半分なのである。これは中学生以降の数値であると推測される。なぜなら、中学での遺伝と学業成績を調べたデータがあるからだ。
安藤教授は双生児を調査することで遺伝の影響を見ているが、その双生児研究で知られるのが東京大学教育学部附属中学高等学校だ。積極的に双生児を入学させ、調査研究をしてきた。この東大附属の双生児研究によると、一卵性双生児で成績に差が出ないのは音楽や体育で、最も差が生じるのが数学と物理であるという。