一卵性双生児はひとつの卵子が分裂して2人になるので遺伝子はほぼ同一である。それなのに差が出る科目は、後天的な要素の影響が強いのではないか。
その要素とは「努力するか否か」となろう。『日本人の9割が知らない遺伝の真実』掲載のデータでは学業成績は、算数で約8割の遺伝率とあるが、それはあくまでも9歳児時点のものだからであろう。
9歳というのは小学校3年だ。この時期の算数は、まだごく基礎的なことしか学ばない。たとえば、小学3年では、時刻を12時間制と24時間制の変換を習う。
午後3時15分は24時間制に変換をすると、15時15分である―――このぐらいの基礎的なものだと、なんら努力せずに理解できる子もいて、そういう子は遺伝的に「勉強に向いている脳」と考えられ、努力せずに好成績を取れるのかもしれない。
しかし、これが中学以降の数学になると積み重ねた知識が重要になるので、コツコツと勉強をした方が成績は上がる。二次方程式を解くためには、一次方程式を理解し身につけている必要がある。学年が進むにつれて、その積み重ねは増えるので努力をする否かで差がつく。
医学部の入試でなぜ難しい数学の問題を出すのか。医師の仕事に数学はそれほど必要ではないのに、だ。それは「コツコツと努力をしてきたか否か」を見るためではないか。医師として活躍するには膨大な知識を身につける必要があるので、努力型の学生がほしいのではないか。
こうして数学は努力で成績に差が出る傾向があるので、一卵性の双生児でも差が出てくる。また、一卵性の双生児は、学校で同じタイプの人間が2人いても居場所が作りにくいので、無意識のうちに違うキャラクターになっていくことが多いという。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(橘玲、新潮新書)の中でも、アメリカの心理学者ジュディス・リッチ・ハリスの集団社会化論が紹介されている。子どもは友だちとの関係のなかで自分の性格(キャラ)を決めていく。どんな集団でも必ずリーダーや道化役がいるが、2人のリーダー(道化)が共存することはない。キャラがかぶれば、どちらかが譲るしかない。このようにして、まったく同じ遺伝子を持っていても、集団内でキャラが異なればちがう性格が生まれ、異なる人生を歩むことになるのだ──そう書かれている。
実際、ある一卵性姉妹は中学受験塾で偏差値に差が出た。片方はがり勉キャラになって御三家を目指しているが、もう片方は「そんなに勉強をしたくない。女子校は嫌だ」と中堅共学校を希望しているという。
数学に向いてない脳の生徒がいくら努力をしてもトップレベルの学力になることは難しいかもしれない。しかし、同じ脳を持つ2人がいたら努力した方が勝つということではないだろうか。