「投資」にどう向き合うか。老後不安を解消する意味でも失敗はしたくないものだ。「株やFX、暗号資産は怖いけど、現物を見て買える不動産投資なら安心なのでは」と考える人もいるかもしれないが、そこには大きな落とし穴がある。50代半ばで会社を早期退職したF氏は、不動産投資業者の口車にまんまと乗せられたひとりだ。
「3年前に不動産投資会社の営業マンから『都内の駅近に安くていい物件が出ました。ローンを組んでも家賃収入で持ち出しはないでしょう』と勧められ、築20年、2000万円の中古ワンルームマンションを購入。頭金500万円を退職金から捻出し、残りはローン(金利3%、15年返済)を組むことになりました」
毎月のローン返済額は約10万3000円。営業マンは「家賃12万円台で借り手がつく」と話していたが、1年間も入居者が見つからず、ローンの返済だけが続いた。家賃を9万5000円まで下げてどうにか入居者が見つかったが、ローン返済額を下回るため、持ち出しは続く一方だった。
「この先、物件を持ち続けても収益化が見込めないと判断、売却を決断しましたが、売却額は買い値より2割ほど安い1600万円。住宅ローンもまだ1250万円ほど残っていたので、これまでの持ち出し分と合わせるとトータル600万円近いマイナスです。買う前は『家賃収入が見込めて売却時もほぼ買い値で売れるだろう』と考えていましたが、とんでもない大失敗に終わりました」
住宅ジャーナリスト・山下和之氏が指摘する。
「不動産投資は入居者がつかない『空室リスク』や『値下がりリスク』に加え、『金利変動リスク』もある。自宅用のローンと違い、不動産投資物件のローンは3~4%の変動金利型がほとんど。変動金利は日銀の政策金利に連動していて、今のところ低金利で落ち着いていますが、数年内には金利上昇の可能性が高い。そうなれば、返済額が増え、利益がなくなるばかりか、持ち出しが増える可能性も高まってしまう」
大切な老後資金だからこそ、投資には慎重な判断が求められる。
※週刊ポスト2023年9月29日号