いまや定年を超えても働く人はめずらしくなく、せっかく働くなら「生きがい」を見つけたいという人は多い。60才を超えて資格を取り、「第二の人生」を謳歌している人の体験を通じて人生後半戦をより豊かに生きるヒントを探ってみた。
大きな体を屈めて、小さな園児たちに手を差し伸べる男性。クマの形をした胸の名札には「たかざわ ひであき」と記されている。
「1才クラスの男の子がおじいちゃんと間違えてぼくのことを“じーじ”と呼んだんです。それ以来、みんなから用事もないのに“じーじ”と呼ばれるようになりました」
笑顔で語るのは元プロ野球選手で、現在は保育士として神奈川県横浜市の「大豆戸どろんこ保育園」で働く高沢秀昭さん(65才)。ロッテの一員としてパ・リーグ首位打者やゴールデン・グラブ賞など数々の受賞歴を誇り、1992年に現役引退。その後、ロッテでコーチなどを務めたが、2019年に契約が満了。当時61才の高沢さんが選んだのは保育士の道だった。
「中学生の頃から50年ほど野球一筋で生きてきたので、全然違うことをやってみたかった。昔から子供が好きだったので、子供にかかわる仕事がしたいと漠然と思い、まずは近所の保育園に行ってみたんです」(高沢さん・以下同)
そこで「用務員で雇ってもらえませんか」と聞くと「資格がないとダメ」と門前払い。一念発起して保育の専門学校に入学し、10~20代のクラスメートと机を並べた。
「学校側から“若い人とうまくやれますか”と心配されたけれど、私はプロ野球で2軍のコーチをしていた期間が長く、18才や19才の若手選手を指導していたので不安はありませんでした。確かに最初は“この年をとった人はなんなのか”という冷たい視線も感じたけど、徐々に若い友人もできましたよ」