福島第一原発からのALPS処理水放出を口実にした中国の日本産水産物の輸入停止により、輸出できない「ホタテ」が山積みになる大混乱が発生したことが大きく取り上げられた。他の分野でも「中国依存」がリスクになりかねないと、識者は警鐘を鳴らす――。
中国への輸出ができなくなって、ホタテ産地の倉庫では在庫が積み上がり、価格は急落。一大産地である北海道の水産加工業者などは、いきなりの倒産危機に見舞われた。それを受けての全国からの買い支え、産地の自治体へのふるさと納税といった支援の動きも出てきたが、農林族議員の一人はこう嘆く。
「中国の論理はめちゃくちゃ。日本の漁業者が獲る水産物はリスクがあると言うが、同じ日本近海で操業する中国の漁船が獲った水産物は問題ないというのだから。ただ、資源量も購買力も桁違いの中国がひとたび動けば、食料は外交上の“武器”になることが改めて印象付けられたのはたしか」
日本と中国の間には、さまざまな経済的な結びつきが存在するが、とりわけ「食材」は多くの人にとって身近なものだから、輸入停止などの措置のインパクトは大きい。「ホタテの次は何なのか」――。永田町筋では、中国が同じく食に関係する貿易で揺さぶりをかけてくるシナリオが懸念されているという。
リン酸アンモニウムの輸入停滞で大騒ぎに
それが「肥料」だ。農政に詳しいキヤノングローバル戦略研究所の研究主幹・山下一仁氏が「日本は、肥料の原料の多くを中国などに頼って調達してきた」とその背景を解説する。
「耕作に使われる肥料の原料のうち懸念が大きいのは、花や実のつきをよくするために使われるリン酸アンモニウム(リン安)や根の生育を促す塩化カリウムです。とくにリン安は2020肥料年度(2020年7月~2021年6月)は90%を中国から調達していました。それが、世界的に肥料価格が高騰していた2021年秋、中国が肥料原料輸出にかかる法定検査を厳格化すると、輸入が停滞し、業界は大騒ぎになったのです」