賃金は上がらず物価だけは上がっていく
我々のような就職氷河期世代の中には、「親がかつて自分にしてくれたことを子供達に対してやってあげられないのがもどかしい」といったことを語る人がけっこういます。この30年ほど賃金はあまり上がっておらず、それなのにこの1年ほど、物価だけはどんどん上がっていくスタグフレーション状態に。祭りの屋台メシもその煽りを受けて、原材料高を価格に転嫁せざるを得ないのでしょうが、Sさんの言葉からは「もはや屋台メシは庶民のためのものではない」という諦めも感じられました。
一方、「やまおとフェス」ですが、地元の農家が野菜や米、飲み物を出し、飲食店がキッチンカーを出す。スイートポテト1個100円、ビールは300円、発泡酒は200円、ジュースは140円といったお手頃価格。Sさんはこの値段だからこそ子供達に「いくらでもOK」と伝えたのでした。唐津「Markey’s」の「サバーサンド(サバと特製タルタルソースのサンドイッチ)」は200円。すぐに売り切れていました。
ただし、「何を買っていい」と言ったSさんにとっても例外が一つだけありました。昨年、ビニール製で空気が入った刀を50円で買ったそうですが、家に帰る頃には空気が抜けてしまい、「今年はコレはダメよ」と伝えたそうです。私はこの日、ビールを3本、発泡酒を2本、3本入り150円のキュウリを購入。
それにしても屋台メシは、かつての200~500円といった価格帯に慣れていた身とすると、今や贅沢品になったもんだ、と感じ入った今年の祭りシーズンでした。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など多数。最新刊は『日本をダサくした「空気」』(徳間書店)。