「熟年離婚」とは、一般的に「婚姻年数20年以上の夫婦の離婚」を指す言葉だ。中高年の離婚が増えた2000年頃から言葉として浸透するようになり、2005年には定年退職した夜に妻から離婚を切り出される夫を描いたドラマ『熟年離婚』(テレビ朝日系)が話題となった。実際、厚生労働省の調査によると2007年以降20年以上連れ添った夫婦の離婚率は増加の一途を辿っており、2020年には過去最高を記録した。
《好子さんは天下の悪妻だった》《井上ひさしの妻が不倫の末に出奔》──1986年、新聞や雑誌にそんな見出しが躍った。
日本子守唄協会理事長で元劇団主宰の西舘好子さんは、当時日本中を揺るがすセンセーショナルな“大問題”にまで発展した作家の井上ひさしさん(享年75)との熟年離婚をこう振り返る。
「『不倫』という言葉が報道で大々的に使われたのは、私たちのケースが初めてだったんじゃないでしょうか。“私のやったことってそんなに倫理に反するようなことなんだろうか?”とあのときは意味さえもよくわからなかった。私たちの場合は有名税ということもあったでしょうけど、それでも理不尽だと思うくらいに批判を浴びました。
そもそも男の不倫は『女遊び』で片づけられたうえ、不倫された女性が『不倫の原因を作った女が悪い』なんて言われるのが当たり前だった時代。私のように妻でありながら好きな人ができて離婚するなんて、袋叩きにされて当然という風潮でした」
好子さんに好きな人ができたことが「最後の一押し」となったことは確かだが、25年にわたる婚姻関係を解消するに至った根本の原因は「些細なこと」の積み重ねだった。
「例えばすいかの種をどうするかとか、本当にちょっとした文化の違い。山形県出身の彼にとって、浅草の下町で育った私との暮らしが、最初は面白かったのでしょう。でも毎日となると嫌なこともいっぱいでてきますし、一度亀裂が入ると、夫婦仲の修復は難しい。
また、夫婦仲が悪くなった頃、井上さんのお母さんも一緒に暮らすようになったことでさらに関係が悪化した。私の両親にもきつくあたられることもあり、次第に一緒にいることがつらくなっていったんです」(好子さん・以下同)