父は中国IT企業の創業者。資本関係はないが株価急騰
もっとも、Pika Labsが本土市場で注目されたのは、本土出身の郭文景女史が米国において将来有望なベンチャー企業を創業したという話題性だけが理由ではない。金融機関を中心にソフトウエア開発、ソリューションを提供する信雅達科技(600571)の元CEOで現在も実質的な筆頭株主である郭華強氏が彼女の父親であることが明らかとなり、本土投資家たちが大きな関心を寄せたのである。ちなみに彼女の母親も米国留学経験があり、マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業しているそうだ。
信雅達科技の11月29日の株価終値は10.04元であった。その後、6営業日連続でストップ高を記録、12月8日は利益確定売りに押されたものの、11日には4.7%高、終値は17.90元で引けている。信雅達科技は、株価が急騰し始めた直後の12月1日以降、再三にわたって、郭華強氏と娘の事業とは全く無関係であると公表しているが、そうした中で株価はわずか8営業日で78.3%上昇している。
実際に資本関係も、業務関係もないのだから、今回の株価急騰は行き過ぎの感がある。ただ、あえて急騰が続く理由を挙げれば、次の資本調達の際に、信雅達科技がPika Labsに出資するかもしれない。Pika Labsが中国市場を狙い、顧客基盤を拡大したいのならば、信雅達科技と組むかもしれない。そういった予想をする投資家が多いことで、株価の上昇が続いているのであろう。
今回の件が投資家に示してくれる含意がある。まず、中国本土出身の優秀な中国人が米国の有名大学には数多く在籍しており、彼ら/彼女たちの力が米国の技術革新、イノベーションを支えているという事実。そして、米中の経済協力関係は複雑に絡み合っていて、米中デカップリングは難しいということ。
AIが今後、グローバルで世の中のいろいろな場面で大きな変革をもたらしそうだということは誰の目にも明らかになってきた。来年の資本市場も、AIが最も重要な投資テーマの一つとなりそうだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。