将来性を見越してファンドの資金も流入
成長ビジネスの動向に敏感な株式市場ではショートドラマ業界はどう評価されているのだろうか。中国本土A株市場では全体相場が軟調に推移する中、11月に入りショートドラマ・ゲーム関連、TikTok(ティックトック)関連銘柄に資金が流入している。
例えば、メディア企業を中心にマーケッティング業務を展開、娯楽コンテンツの配信も行う引力伝媒(603598)の株価は11月3日あたりから動意づいているが、11月16日にストップ高を付けるとそこから急騰、12月16日までの23営業日中、13回ストップ高を付けている。11月2日の終値は9.83元であったが12月16日の終値は27.27元で、この間株価は2.8倍に急騰している。
ただ、引力伝媒は急騰が始まった直後の11月18日以降、再三にわたり、「主要業務、ビジネスモデルなどについて、株価急騰につながるような重大な開示情報は存在しない」と発表している。市場はショートドラマ・ゲーム関連、TikTok関連の代表銘柄の一つとして注目しているが、現在のところ、主要業務として、ショートドラマのコンテント制作、配信運営に関する業務を行っているわけではなく、また、TikTok内のショートドラマ配信に係わる業務を行っているわけではないと強調している。
株価急騰の一因としては、投機的な資金の流入によるところもあるかもしれないが、グロース株中心に投資を行うファンドなどの資金も流入しているとみられる。投資家は現在の姿ではなく、将来の姿を見極めようとしている。
ショートドラマはAIを使った翻訳や、AIによる自動作成などとの親和性も高い。TikTokをはじめ、快手、テンセント、ビリビリなど、動画配信を手掛けるプラットフォーマーは、ショートドラマ市場を積極的に開拓し、収益源とするはずだ。ショートドラマは今後、予想以上の急成長を遂げる可能性もありそうだ。
急騰しているのは引力伝媒だけではない。ケーブルテレビの運営を本業とする深セン市天威視訊(002238)、映画、マンガ製作ビジネスを手掛ける百納千成(300291)、上海政府系の映画製作会社である上海電影(601595)、文化、教育関連の作品を通信にデジタル出版事業を展開する中文在線(300364)など、関連セクター全体に大量の資金が流入している。
現在のショートドラマ業界は中国が大きく先行してはいるが、グローバルでは中文在線傘下の楓叶互動によるショートドラマ配信アプリ「ReelShort」が欧米市場で人気を集めており、日本ではエモルがショートドラマに特化した配信アプリ「BUMP」を提供している。
中国経済に関していえば、不動産不況は厳しいが、一方で新しい産業の芽がどんどんと出ている。その点で、日本のバブル崩壊時とは異なるようだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。