このMX-30 ロータリーEVに搭載されるバッテリー容量は17.8kWhです。先に述べたBEVのMX-30EVのバッテリー容量の半分です。軽量コンパクトなエンジンと軽いバッテリーとなれば、やはり走りの軽快感は良くなります。人馬一体を標榜しているマツダの商品作りの方向性ともピタリと合うわけで、採用するには利点があったわけです。
一方で復活したロータリーエンジンは走りに直接関わらず、発電専用として稼働します。当然、一部には「寂しい」という声もあります。しかしここは、マツダが長年大切にしてきた技術的シンボルのひとつ、ロータリーエンジンを11年ぶりに復活させたことに大きな意味を感じてもいいように思います。
そのスペックを見ると排気量は830ccの1ローターで、最高出力は55kW(74ps)。もちろんRX-7やRX-8に搭載されているスポーツカーエンジンと比べる必要はありませんが、スペックだけを見れば軽自動車ぐらいなら何とか走らせることができそうなエンジンです。これが発電のために、必要となればパワフルに回りますから、レンジエクステンダーの補助的な役割のエンジンとは、走りを支える上での関わり方が少し違うのです。こうしてロータリーエンジンが復活したことは、2020年1月30日に創立100周年を迎えたマツダにとって、メモリアルな1台ということになります。
ロータリーエンジンによる発電を体験
このMX-30 ロータリーEVは、日産のノートからエクストレイルやセレナといったモデルに採用されているシリーズハイブリッドの「e-Power」と、モーターのみで走る点では同じです。大きく違うのは、MX-30 ロータリーEVは外部充電が可能ということです。日常的な使い勝手で言えば家庭での普通充電によって近場の生活圏はガソリンを使わず電気のみで走行できます。200Vの一般充電でEV走行だけで107km(WLTCモードEV走行換算距離)で、これは国産PHEVのトップクラスです。
問題はバッテリーの充電容量が減り、走行中にエンジンが始動したときの騒音や振動、そして燃費ということになります。これは初期の頃のe-Powerでも気になった部分ですから、マツダではどのような仕上げになっているのでしょうか?
さっそく試してみたいところですが、カタログ上は、EV走行で100km以上を走らなければエンジンは始動しないようです。強制的に発電モードを使えばいいのですが、どうやらバッテリーが空に近づいてエンジンが始動するのと、強制的な発電モードによるエンジンの回り方では違いがあるというのです。とはいえさすがに短時間での試乗で100km走行は無理なので、発電モードを使用してみました。
実に滑らかで静々とロータリーエンジンは回り、発電を続けます。振動や騒音で大きなストレスを感じることなく、エンジンの存在も意識せずに時間が過ぎていくのです。ピストンが上下するレシプロエンジンに比べると、回転運動だけのロータリーエンジンは振動やノイズが低いため、こうした発電用としても有効というわけです。もちろんモーターの走りは低速からトルクフルで力不足を感じることはありません。その走りは静粛にして滑らかで、走りも軽快です。
停電時やアウトドアでも頼もしい存在
ひとまずテストを終えてドアを開けました。MX30シリーズは前後のドアが観音開きの4ドアで「フリースタイルドア」とメーカーは呼んでいます。中には「前のドアを開けないとリアドアが開けられないから不便」という人もいます。確かに助手席側のリアシートから人を降ろす場合があるときには面倒くさいかもしれませんが、これまで何度か使用していますが個人的に不便を感じたことはありませんでした。むしろ子供が勝手にドアを開け車道側に飛び出したりするリスクが減るだけでも、多少の安全担保になります。それにしてもこの観音開きドアも、最後のロータリーの市販車となったRX-8に採用されていたもの。マツダはこう言うストーリーを大切にするメーカーなのかもしれません。
そんなことを感じながら、建物に給電する「V2H機能」が装備されていることを確認。V2Hとは「Vehicle to Home」の略称であり、建物に設置されているV2H充放電設備に接続することで、駆動用バッテリーに蓄えられた電力を建物に給電するシステムのことです。もちろん停電時にはロータリーEVから給電することで、家庭にある色々な電気製品を利用できます。さらに可搬型外部給電器を活用すれば、複数の電気製品へ同時に給電できる「V2L機能」もあります。これならば4500Wまでの大きな電力を一度に使用することができるので、アウトドアなどには重宝します。