共産主義国家として見逃してはおけない副作用
日米欧のマスコミは、預金準備率の引き下げなどの金融緩和策や各種ファンドなどによる買い支え、空売り禁止などの市場対策にばかり目が向いているようだが、本土市場では、“中国”の文字が企業名の最初に付く、いわゆる“中央系国有企業”株に資金が集中している。市場へのインパクトという点ではこの人事評価システムの改善の方が大きいだろう。
共産党は企業(中央系国有企業)への支配強化を通じて、経済成長を促そうとしているのだが、期待もあるが、うまくいくかどうか不安視する意見も少なくない。
アイデア一つで起業し、欧米系ベンチャーキャピタルと一体となって、米国市場、あるいは香港市場への上場を目指す。首尾よく上場できれば、そこで得た資金を事業に再投資し、さらに事業を大きくする。こうした米国型金融資本主義によって、ECや新業態のサービスなど多様なインターネット事業が生まれたり、不動産事業や新エネルギー自動車産業などが急速に発展したりしたのであるが、その裏側で共産主義国家として見逃してはおけない副作用も生じている。
営利目的で教育事業に参入し、受講料を吊り上げ、過度に受験競争を煽る企業、義務教育課程の学生に対して教育上望ましくない刺激の強いゲームを提供したり、課金を煽ったりする企業、優位な立場を利用して、出店企業に圧力をかけ他社との取引を許さないEC取引業者、過当競争に勝ち抜くために配達員に違法な条件で労働を強いるネット出前企業、医師免許制度を逸脱、AIを使った医療行為を行うヘルステック系企業、最近では企業を私物化し、酷い背任行為を繰り返す不動産ディベロッパーなども話題になった。
アニマルスピリッツを経済発展の推進力にすることによる副作用は大きい。さらに、その極端な報酬配分は社会全体で貧富の差を拡大させ、社会を不安定にする。
しかし、だからと言ってアニマルスピリッツを軽視し、民営イノベーション企業を特別視することなく、既存のルールに従うよう法令順守を求める。一方で、エリート経営者たちの“社会を少しでも良くしたいと思う気持ち”を信じつつ、出世欲、名誉欲、金銭欲を刺激することで、どの程度の企業活力を生み出すことができるのか。優秀なエリート集団が作り上げた未来設計図に基づく配分は、徹底した自由競争、適者生存の結果として達成される資源配分の最適化を凌駕することができるのだろうか。
一部の者が先に豊かになる時代は終わり、豊かになった一部の者がその他の者を引き上げることで、みんなが豊かになる時代を目指す。素晴らしい考えだが、その実現は容易ではないだろう。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。