「共有名義」にするともっと大変なことに
分割できないからといって、家や土地を「共有名義」にすることも避けなくてはならない。
「共有名義にすると、所有者のうち誰か1人でも反対したら売却などの処分ができないためトラブルが頻出します」
そう話す吉澤氏が相談を受けた神奈川県のケースでは、親から相続した不動産を兄弟3人で共有名義にして、事業者に貸し出していた。相続から20年が経ち、事業者は撤退。今度はデベロッパーから「マンション用に土地を買いたい」と持ち掛けられたが、話を進められずにいるという。
「もともと共有名義にしていた兄弟のうち2人はすでに亡くなり、その子供らが相続したので現在は所有者が8人。そのうち6人は売りたいと考えているのに、残り2人が『まだ値が上がる』と反対して土地も建物も塩漬けになっています。
相続時に共有名義にすると将来のトラブルにつながる。問題の先送りに過ぎず、可能な限り避けるべきです」(吉澤氏)
「生前整理」が鉄則
家と土地の相続トラブルを賢く回避する方法はあるのか。
吉澤氏は「不要な不動産は親が生きているうちに処分するのが鉄則」と語る。親が亡くなると、相続放棄するなら3か月以内、相続税の申告は10か月以内といった具合に、手続きの期限に追われることになる。
「親が生きているうちであれば、まだ時間的な余裕がある。少しでも時間を有効活用して不要な不動産を整理していくことです」
『負動産地獄』の著者でオラガ総研代表の牧野知弘氏は「親の存命中に家族会議を開くこと」を推奨する。
「親が生きている間に不動産を鑑定し、不要な不動産を処分していけるのが理想。ただし、そもそも子供は親の資産を意外と知らないものです。なので、なるべく早い段階で家族会議を開き、不動産の行く末を話し合って決めておくことが大事です。親は価値があると思っている不動産でも、子はいらないと思っていることがある。そうした意思確認をすることで、必要な処分が進められるわけです」
財産だと思っていたものが重荷とならないように、家族内の意思疎通が重要になる。
※週刊ポスト2024年2月23日号