江戸時代のトイレは「宝の山」
「熱心に取り組むようになったのは、一緒に暮らしていた祖母に“トイレにはきれいな女神様がいるから、掃除をすればべっぴんさんになれる”と言われたことがきっかけです」
そう話すのは“トイレ掃除は心のバロメーター”が座右の銘だというシンガーソングライターの植村花菜(41才)。大ヒットソング『トイレの神様』を歌う彼女は、家族でニューヨークに移住した現在も、一日の始まりに必ずトイレ掃除を行うという。
「祖母の言い伝えのほかにも、トイレ掃除をすると神様が見ていていいことが起こるという話は、さまざまな形で全国各地に伝わっているようです」(植村)
山戸さんは“神様”は実際に存在すると続ける。
「例えば真言宗や天台宗で祀られている『烏枢沙摩明王』や七福神のひとりである『弁財天』は、トイレの不浄を清める神様として親しまれています。元来、日本にはあらゆるものに神が宿っているという考え方があり、トイレも例外ではないということ。古くから大切に使い、清潔にしておかなければならないという考え方が根づいているんです」
そうした精神性の源が江戸時代にあると分析するのは、マーケティングコンサルタントの西川りゅうじんさんだ。
「当時から江戸や大阪の街には公衆トイレがありましたが、『トイレは宝の山』でもあったんです。それは糞尿が野菜や果物を育てる肥料として利用するために売買されていたからです。江戸時代の日本のトイレは栄養豊富でお金を生む排泄物を、樽や荷車や舟で郊外に運ぶために数多くの人が従事する一大ビジネスでした。
欧米の街では糞尿が窓から捨てられたり路上に放置されるなど衛生状態は劣悪だったといわれていますが、江戸は世界一エコなリサイクル都市だったのです」(西川さん)