「偽割安株」の「バリュートラップ」とは
その逆を考えてみましょう。割安株が割安なまま何年も放置されても何の矛盾も起きないケースです(何の矛盾も起きなければそれは「割安株」ではなかったことになるのでこれは「偽割安株」です)。
これを「バリュートラップ」といいます。表面的な割安さ(偽の割安さ)に惑わされて投資をしたけど結局株価は上がらなかったというケースのことです。
ここでも悪役はPBRです。こういう会社を考えてみましょう。資産は100億円の工場だけ。借金ゼロ。純資産100億円。
儲けは毎年税引きで2000万円。時価総額が20億円だったとしましょうか。PBRは0.2倍ですから、これだけで見れば割安に見えます。でも、PERは100倍で全然割安ではないし、
儲けを全部配当で払っても配当利回りは1%にしかなりません。この会社はこのまま操業を続けても何年たっても株価が上がらない可能性が高いでしょう。株価が上がらなくても何の矛盾も蓄積されませんから(さすがに100年経てばネットキャッシュ比率が1になるかもしれませんが)。
典型的なバリュートラップは、PBRの低さに目を取られ過ぎた時に起きることが多いと思います。これも我々が決算短信を見てネットキャッシュをチェックすることをお勧めしている理由です。
※清原達郎・著『わが投資術 市場は誰に微笑むか』(講談社)より、一部抜粋して再構成
【プロフィール】
清原達郎(きよはら・たつろう)/1981年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業。同年、野村證券に入社、海外投資顧問室に配属。スタンフォード大学で経営学修士号(MBA)取得後、1986年に野村證券NY支店に配属。1991年、ゴールドマン・サックス証券東京支店に転職。その後モルガン・スタンレー証券、スパークス投資顧問を経て、1998年、タワー投資顧問で基幹ファンド「タワーK1ファンド」をローンチ。2005年に発表された最後の高額納税者名簿(長者番付)で全国トップに躍り出る。2023年、「タワーK1ファンド」の運用を終了し、退社。はじめての著書『わが投資術 市場は誰に微笑むか』(講談社)が話題に。