影響は「空白地帯」や「困難地帯」にとどまらない。訪問介護サービスを十分に利用できないようになれば、しわ寄せは家族に向かう。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などは利用料の高いところが多く、誰もが入居できるわけではない。
総務省の就業構造基本調査(2022年)によれば、介護者629万人のうち有業者は365万人だ。介護者の過半数が仕事と介護の両立させている「ビジネスケアラー」である。
介護や看護のため過去1年間に離職した人は、2022年は10万6000人(男性2万6000人、女性8万人)だ。2017年の前回調査(9万9000人)と比べて7000人増加した。2007年から2017年にかけては減少していたが、底を打った形だ。
経済産業省は、2030年に介護者が833万人、ビジネスケアラーが318万人にまで増えると予想している。基本報酬の引き下げによってホームヘルパーの不足が加速すればビジネスケアラーのうち介護離職に転じる人が増えるだろう。
経済損失9兆円超えへ 歳出抑制効果も吹き飛ぶ
就業構造基本調査はビジネスケアラーが介護者に占める割合を年齢階級別でまとめているが、男女とも50~54歳(男性88.5%、女性71.8%)が最も高い。50代前半といえば管理職や責任ある立場に就いている人が多い。この年代が介護離職に追い込まれたなれば、職場はもとより社会全体にとってもダメージだ。
経産省は介護離職の増加やビジネスケアラーになることで労働総量や生産性が低下し、2030年には約9兆1800億円の経済損失が発生すると試算している。基本報酬の引き下げによる訪問介護の弱体化という要素を加味したならば、経済損失額はさらに膨らむだろう。結果として税収が落ち込み歳入が減ったのでは、社会保障費の伸びの抑制効果など簡単に吹き飛んでしまう。
他方、訪問介護の基本報酬の引き下げは、厚労省の介護政策の軸がいまだぶれていることを明らかにもした。