疑われないための「診断書」
家族の助けになるはずのものが、親の認知症との関係で“きょうだいトラブル”の種になりかねないという点では「遺言書」も同様だ。『トラブルの芽を摘む相続対策』の著者で吉澤相続事務所代表の吉澤諭氏が言う。
「親の死後に遺言書が出てきて、“同居する長男に全財産を渡す”と書かれていたが、日付を見ると親に認知症の兆候が出ていた時期のもので、本当に親本人の意思だったのか疑わしい……といったトラブルになるケースがあります。そういう状況で他のきょうだいが遺言の有効性に疑問を抱き、話し合いで解決できない場合、遺言が無効だと裁判を起こすしか方法がなくなります」
まさに泥沼の“争族”だ。これを回避するには、「いつから親に認知症の兆しが出始めたのか」をはっきりさせておくしかない。吉澤氏が続ける。
「同居する子の側であっても、離れて暮らす子の側の立場でも、親の様子を確認し“認知症で遺言を書けなくなるのが近いかもしれない”と考えられるなら、こまめに診断書を取ることです。アルツハイマー型認知症といった診断があれば、それ以降の遺言書は法律的に認められるのが難しくなる。それによって、同居する子は診断日より前の遺言書について“無理矢理書かせた”と難癖をつけられるリスクが回避できるし、離れて暮らす子は親が同居の子の言いなりに遺言書を書かされてしまう問題を防げるわけです」
※週刊ポスト2024年3月22日号