戸籍チェックの連続で時間が奪われる
登記が完了するまでの気が遠くなるような道のりの中でも最初に大変な思いをするのが「相続人の把握」だと、遠藤さんは言う。
「法務局でその不動産の登記を取れば、所有者を知ることはすぐにできます。ですが、大変なのはここから。
登記上の所有者の戸籍をたどり、その人が生まれてから亡くなるまでの間の子供を養子も含めてすべて洗い出し、同じようにその子供が生まれてから亡くなるまでの戸籍を取り、また子供を洗い出すのです。配偶者がいればその分もすべて行います。
この3月からは戸籍の一括請求ができるようになりましたが、対象となるのは直系の親族と配偶者のみ。それ以外のかたについては、本籍が違えばそれぞれその場所に請求する必要があり、時間も手間もかかります。専門家でも神経を使う作業ですから、個人で行うのは難しいでしょう」(遠藤さん・以下同)
特に“先祖代々の土地で、最後の登記が大正時代”といったケースでは、印字されていない手書きの文字を読み解かなければならなくなる。また相続人が多いほど、連絡のつかない人が出てくる可能性も高まり、その間にも期限は近づく。費用はかかるが、司法書士などの専門家の手を借りることも、選択肢の一つとして覚えておくべきだ。
不動産相続は「賃貸暮らしの子」にするとお得に
相続人を把握できた後は「誰が相続するのか」を決める必要がある。
「法定相続分どおりに相続登記するなら、誰が相続するのかを決める必要はありません。しかし、費用をかけて相続登記するなら、その不動産を単独で所有したい、させたいと考えるかたが多いのです。ですが近年は不動産を取り合ってもめるよりも、固定資産税や管理費用などがかさむことなどから“不動産はいらない”と相続人の間で押しつけ合いになってもめるケースが少なくない。登記が義務化したことで面倒が増えたため、今後はさらに増える可能性があります」
もちろん、その不動産が欲しいと言う相続人がいれば、その人の手に渡るようにするのがベスト。一方でもし「自宅は長男が継ぐべきだ」といった古い考えに固執しているなら、相続税の納付額で痛い目にあう可能性がある。
「例えば、長男が持ち家で、次男が賃貸に住んでいるといったケースでは、自宅は次男に相続させる方が税金面では得です。家を持っていない相続人(次男)が自宅を相続して住めば、その不動産の土地の評価額を8割減にして計算できる『小規模宅地等の特例』が使えるからです。固定観念にとらわれず、相続人それぞれの事情を鑑みて選択してほしい」(明石さん)