現在、日本で認可されている農薬は4000種類以上に及び、使用量も世界的にみてトップクラスだという。立命館大学生命科学部教授の久保幹(もとき)さんが解説する。
「主要国で1haあたり10kg以上も農薬を使用しているのは、中国、韓国、日本だけです。アメリカは4kg以下で、ヨーロッパに至ってはもっと少ない。加えて日本は残留農薬の基準値も低い。例えば昆虫の神経伝達を阻害する薬剤『ネオニコチノイド系農薬』をきゅうりに使う場合、EUでは日本の100分の1の残留量しか認められていません」
諸外国が厳格な基準を設けるのは、健康被害の研究が進み、リスクが明らかになってきたからだ。
「アメリカの小児科学会は2012年に『子供への農薬の暴露は、発達障害や脳腫瘍のリスクを高める』と発表しました。
実際、OECD主要国において自閉症の有病率は、データのない中国を除けば、農薬使用量の多い日本と韓国がトップ。韓国はその結果を重く受け止め、国策で学校給食で使用する食品をすべてオーガニックに切り替えました」(奥野さん)
しかし日本では、「因果関係が認められない」として問題視すらされていないと奥野さんは続ける。
「農薬には医薬品のように発売前の臨床試験が義務付けられていないことも、健康被害が取り上げられにくい原因のひとつだといえるでしょう。しかし、農薬が体内に蓄積し、次世代に“受け継がれる”ことはマウス実験で明らかになっています。
有名なのは『ネオニコチノイド系農薬』の研究です。与えたマウスの記憶力が大幅に落ちたという結果のほか、認知症との相関関係も指摘されている。何より気がかりなのは胎児への影響です。妊娠した母親マウスに飲ませると、1時間後には胎盤を通って胎児の血液に移行しました。
ネオニコチノイドをはじめとした最近の農薬は分子レベルが小さく、浸透性が高い。洗浄によって落とすことが難しいうえ、体内に細胞レベルで入り込むため、遺伝子や神経細胞に影響を与える可能性が否定できません」