一方、「AI(人工知能)やデジタル技術によって人手不足は解決する」と語る技術者や学者もいるが、これも幻想だ。人口減少の最大の問題は「消費者不足」である。機械は消費しないので、普及すればするほど国内マーケットの縮小が加速する。
いずれも中途半端な結果に終わることは想像に難くない。それでも、こうした空論が跋扈するのは「現状維持バイアス(注:未知の物事や変化を受け入れず、現状維持を望む心理作用)」が働くためだ。人口減少のリアルな数字を見る必要がある。
甘い見通しと辻褄合わせ
出生数の実績値は、すでに政府の予想をはるかに上回る激落ペースとなっている。2019年から2023年にかけて急落し、この5年間の出生数の対前年下落率は平均「マイナス4.54%」である。これは国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「出生中位・死亡中位推計」(最も現実的な予測)の6倍以上のスピードだ。
2024年の対前年下落率はもう一段落ち込みそうだが、仮に「マイナス4.54%」のペースが続いたならば2040年の出生数は約33万人、2070年には約8万2000人となる。100年後の2120年は何と1万人を割り込んで8000人ほどになる。
社人研の「出生中位・死亡中位推計」は2070年の日本人人口を7761万人、2120年は4123万人と予測しているが、この出生数の減り方を基に粗い試算をすると、日本人人口は2045年までに1億人を割り込み、2070年に6220万人とほぼ半減する。2120年は1500万人ほどとなり、日本は「小国」に変わり果てる。「2024年の社会・経済規模」を将来もキープしようとする現状維持バイアスを、即座に払拭する必要がある。
もちろん、政治家の一部や官僚にも厳しい未来図を認識している人は少なくない。だが、こうした人々にも結局は「現状維持バイアス」が働き、政策が虚構であることを承知のうえで「対策は実施している」と言い募っている。
真実を受け入れられないのは、とりわけ政治家に「縮小を前提とするのは敗北主義」との思いがあるからだ。「政治とは社会を豊かにすることである。畳むようなことを口にしたら当選できない」という危機感だ。