政治家がこうした姿勢にある以上、官僚は口を差し挟むことができず、人口減少の影響は事実に反して“軽微なもの”として扱われていく。
こうなると政策はゆがむ。一番分かりやすいのが公的年金だろう。「破綻」の可能性を口にしただけで時の政権が崩壊しかねないとあって、政府は経済成長率や将来進行推計の甘い見通しを駆使して、これまで辻褄合わせを繰り返してきた。
7月に公表された最新の財政検証はとりわけ強引であった。2030年代初頭までの出生数は「ほぼ横ばい」を続け、2040年まで「外国人人口が16万4000人ずつ増加する」という社人研の“現実離れ”した将来人口推計などを使って計算されたのだ。
だが、欺瞞に満ちた検証結果をもって「年金財政は将来も安泰」と言われても、多くの国民が真に受けるはずがない。むしろ年金不信は高まりをみせている。
人口減少の影響が軽微であるかのような姿勢は年金に限ったことではない。都市政策や交通政策、地方政策などにも社人研の甘い見立ては都合よく利用されている。そして「現状維持バイアス」が働いた弥縫策(びぼうさく)を、あたかも「人口減少対策」として各省庁が予算を注ぎ込んで展開するのだから始末に負えない。
【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、人口減少戦略議連特別顧問、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。累計100万部突破のベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『世界100年カレンダー』(朝日新書)、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)など著書多数。最新刊は『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)。
※週刊ポスト2024年8月9日号