しかし、日産とホンダは企業文化や開発哲学が違う。一例を挙げると、「(カルロス・)ゴーン経営」を経てコスト重視の経営をしてきた日産に対し、ホンダは潤沢な開発費をバックに贅沢な開発体制を敷いてきた。こうした両社が折り合いを付けながら、確実な協業体制を構築できるのか。
今年6月中旬、協業交渉に携わる関係者からこんな声が漏れてきた。
「協業交渉が予定通り進んでいない。交渉の実務責任者同士の意見が噛み合っていないようだ」
たとえば、電池の交渉の実務責任者は日産側が平井俊弘専務で、ホンダ側が小栗浩輔BEV開発完成車開発統括部長。平井氏は1984年入社で年齢は60代。日産のパワートレイン領域を牽引してきた代表的な技術者の一人だ。これに対し、2001年入社の小栗氏はまだ40代だ。
「2人は世代も違うため、今後の技術がどうあるべきかについてなかなか折り合いがつかなかったようだ」(前出の関係者)
内田氏は会見で「課題認識は現場レベルに行くほど同じだった」と語ったが、実態はやや違うのではないかと感じている。なぜなら、両トップの考えが一致しても、実務レベルになると交渉が難航したと聞くからだ。
実際、当初6月末までに結論を出す方向で動いていたが、発表は目論見より1か月近く遅れた。
(後編に続く)
【プロフィール】
井上久男(いのうえ・ひさお)/ジャーナリスト。1964年生まれ。大手電機メーカー勤務を経て、朝日新聞社に入社。経済部記者として自動車や電機産業を担当。2004年に独立、フリージャーナリストに。主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』などがある
※週刊ポスト2024年8月30日・9月6日号
(図解つき全文一気読み)
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