農林水産省によれば、基幹的農業従事者は116万4000人で、平均年齢は68.7歳(2023年)。高齢化が進んで、60代が24万3000人(全体の20.9%)、70代以上が68万3000人(同58.7%)を占めている。この年代は今後20年で引退することが予想されるが、そうなれば基幹的農業従事者が8割減る計算だ。目前に迫るこの危機を、どう乗り越えていけばいいのか──。
人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリストの河合雅司氏(人口減少対策総合研究所理事長)が解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。
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日本の農業の担い手が不足している最大の原因は人口減少だ。経営の不安定さもあって若い世代の就農が進まず、高齢化が加速している。
現在働いている基幹的農業従事者が引退した後、誰が耕作を続けるのか。日本の食料安全保障を強化するならば、真っ先に取り組むべきは担い手の確保である。
これに対して政府は「多様な農業人材の育成・確保」としているだけで、「多様な農業人材」が誰を指すのか分からない。仮に兼業農家が増えたとしても、何を生産し、穀物生産力の向上につながるのかどうかは不透明である。
外国人労働者の規模は拡大するだろうが、そのうちの何割が永住者や定住者として農地を守り続けるのか見通しがあるわけでもない。外国人労働者の場合、違う仕事に移っていく人が少なくないのが現実だ。
一方、政府は人材が不足する状況に対しては、農地を集約して作業効率を図ろうともしている。地域計画制度を創設し、将来的に利用する農用地を農業従事者ごとに定める「目標地図」の作成をすべての市町村に求めている。農地が分散していては、数少なくなる担い手が経営規模を拡大する際の支障になるというのが理由である。
だが、国土の狭い日本では中山間地など農地集約が難しい地域が広がっており、小規模農家が自宅近くの基盤整備がされていない小さな農地を懸命に守っているケースが多い。基幹的農業従事者の8割が60代以上であることを考えれば、目標地図で将来の耕作者を決めても、10年後にその人が耕し続けているとは限らない。