下部温泉の大きな特徴は、アルカリ性単純泉の「ぬる湯」だ。30度という“ぬるい”温度で、温泉に含まれるミネラルが血行促進、新陳代謝を活性化させ、切り傷や骨折、筋肉痛などに良いとされる。裕次郎さんの宿泊した部屋は現在も「裕林の間」として宿泊可能だ。
矢崎さんが湯治に対する概念のアップデートの必要性を痛感したのは、やはり“客離れ”が原因だった。
「昔は、社員旅行など団体の慰安旅行が活況でしたが、今は他にもたくさんの新しい娯楽があります。一方で、歴史ある温泉街は“シニアのもの”“古臭い”といったイメージが根強くなり、下部温泉でも廃業した旅館がたくさんあります。
そうしたなかで、20代から30代のお客様には“くつろぐ”という行為に求めるものにも変化があるのでは、と考えました。温泉旅館でくつろぐといえば温泉とおいしい料理を愉しんでいただくという基本の姿勢は変わりませんが、それだけだと物足りない。常に時間と情報に追われる現代人は、どうしても慢性的に疲労やストレスが溜まっています。そうした状態からの解放を目指し、湯治に対するイメージをリニューアルしました」(矢崎道紀さん。以下「」内同)
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