税務署業務はパンクしないのか
「自動化が本当に実現するなら、給与所得者の大半はほとんど手間をかけずに確定申告ができるようになるでしょう。しかし、実際に申告するとなると、税務署は怖いですから、内容が正しいかあらかじめ税務署に見てもらいたい、といったニーズは一定数あると思われます。そうなると、税務署が実施する確定申告の相談業務の負担は必然的に増えることになります」
さらに税務署の事務負担はそれに留まらないという。
「給与所得者は源泉徴収であらかじめ所得税を多めに納めていることが多く、その場合、確定申告をして払いすぎた税金の還付を受けます。現状では、社員が会社に扶養控除や配偶者控除などを申請し、会社が年末調整で返していますが、それがなくなるなら税務署が返す必要があり、そうなると、正しく送金する手間も膨大になります。
加えて、不正な申告で還付を受けようとする人は必ずいますので、税務署はそのためのチェック体制も増強する必要があります。現状、年末調整の計算ミスは会社が責任を持つので税務署の調査はやりやすいですが、サラリーマン一人ひとりが申告するとなると、税務調査の手間は大きく増えるでしょう」(松嶋氏)
これまで会社側が担ってきた相談やチェックの業務が、丸ごと税務署に移行するので、大幅な負担増になると予想されるという。
全国で数百億円の業務コスト削減の可能性
その一方で、会社側は社員の確定申告という業務から解放される。かねてより「会社員も確定申告すべき」と訴えてきたアンパサンド税理士法人代表の山田典正氏はこう話す。
「日本には170万程度の法人があり、社員の確定申告の業務から解放されれば、あくまで感覚値ですが、たとえば1社で平均して10時間の対応時間がかかっていると仮定すると、時間単価2000円として、全体で数百億円規模の事務コストの削減効果が見込まれます。これは企業側にとっては非常に大きなメリットです」