日本政府は2021年までにPFOAとPFOSの製造と輸入を禁止し、その合計を「1リットルあたり50ナノグラム(50 ng/L)」とする暫定目標値を定めた。ところが、国内の多数の水源地で目標値を上回る濃度のPFASが検出されている。本誌は47都道府県への取材や公表資料などをもとに、目標値を超えるPFASが検出された地点の全国MAPを作成した。
「調査地点のなかには、地域によっては水道水の水源地になっている河川や、飲用の井戸水も含まれています。本来であれば飲み水の元となる水源地をより詳細に調査すべきですが、都道府県によっては地域の1級河川などを調べるに留まっているケースが散見されます」(原田准教授)
「当社が原因のひとつであると認識」
WHOは2022年9月、飲み水1リットルあたりの暫定的な基準値を提案した。その数値は、PFOS、PFOAそれぞれで100ng/L、すべてのPFASで500ng/Lとされた。
本誌はPFOS+PFOAの合計値が51~100ng/Lの地点、101~500ng/Lの地点、501ng/L以上の地点の3段階に分けて示した。501ng/L以上の地点があったのは東京、神奈川、千葉、埼玉、静岡、三重、大阪、兵庫、岡山、広島、大分、沖縄の1都1府10県。101~500ng/Lの地点があったのは青森、岐阜、愛知、福井、奈良、宮崎の6県だった。原田准教授が指摘する。
「PFASのうちPFOAは近隣にフッ素樹脂を扱っている工場がある地点で検出されたケースが多い。実際、摂津市には、フッ素樹脂を製造している大手空調メーカー・ダイキン工業の淀川製作所があります」
摂津市で3万ng/Lが検出された冒頭の井戸は、ダイキン工業淀川製作所から道路1本を隔てた場所にある。ダイキン工業株式会社に尋ねるとこう回答した。
「淀川製作所において過去PFOAを製造、使用していたことから、淀川製作所周辺の地下水でPFOAが確認されていることについては、当社が原因の一つであると認識しています」(コーポレートコミュニケーション室広報グループ)
ただし、PFOSについては「過去より当社は製造・使用をしておらず当社は原因ではありません」とし、こう続けた。
「大阪府等における調査結果において、PFOAの他にPFOSも検出されている事実に鑑みますと、PFOSだけでなく、PFOAについても、当社以外に原因がある可能性は否定できないものと考えています」
「血液検査は当社が実施したものではなく、分析方法や精度などの実施内容の詳細を把握していないことからコメントは差し控えさせていただきます」
摂津市議で「大阪・摂津市PFOA汚染問題を考える会」事務局の増永和起氏が訴える。
「ダイキンはPFOAについては認めてはるから、地域の皆さんに対策を講じてほしいと思います」
ダイキン工業淀川製作所の近くに住む同会代表の清水信行氏が続ける。
「新たな公害を防ぐためにも、行政主導で健康影響調査や疫学調査などを行ない、健康リスクについての明確な基準を作るべきではないか」
水道水の送水場で基準値超え
水道水の供給元からPFASが検出された自治体が、三重県桑名市だ。同市内の多度町柚井地区などに水道水を供給する「多度中部送水場」で、2020年に290ng/L、2021年に170ng/L、2022年に230ng/LのPFASが検出された(3年間とも検出は8月)。2022年10月に送水場は停止されたが、柚井地区に住む元自治会役員の男性(69)はこう語る。
「今はもう水道水は安全と言うけれど、問題の3年間も水道水を飲んでいたので、今後の自分たちの身体や子供や孫への影響が心配です。昔からこの地域では、『多度山の伏流水やから冷たくて美味しいね』と言って水道水を飲んできたのに、なぜ悪い測定結果が出た時に教えてくれなかったのか。きちんと地元に説明してほしい」
今年5月、国は水道水のPFAS濃度の調査を9月末までに行なうように各都道府県や水道事業者などに要請した。その調査結果は現在、環境省が集計中だ。PFASは永遠の化学物質がもたらす“新たな公害”と言える。さらなる調査と健康被害への対策が求められている。
取材/上田千春、佐藤篤司、末並俊司、田村菜津季、橋本安彦 文/池田道大 撮影/太田真三
※週刊ポスト2024年11月1日号