全国の水源地である河川、地下水から、発がん性を指摘される有機フッ素化合物である「PFAS」(ピーファス)が続々検出されている。ついには、直接私たちが口にする水道水から検出される事例まで現われた。本誌『週刊ポスト』は各自治体への取材を進め、PFASが検出された全国258地点をマップ化。PFAS研究の第一人者である京都大学大学院医学研究科の原田浩二准教授が警鐘を鳴らす。
「甲状腺に20mmの腫瘍が…」
水の都とも呼ばれる大阪に、「水質汚染」を訴える人々がいる。
「おかしいですよ。井戸水や地下水から、ものすごい数値が出ているんですから」
そう語るのは、摂津市内の一津屋に井戸と畑を所有する男性だ。「ものすごい数値」とは、男性の井戸水から検出された化学物質・PFASの「1リットルあたり3万ナノグラム(3万ng/L)」という値である。
PFASとは、1万種類以上ある有機フッ素化合物の総称。水や油をはじく性質を持ち、消火剤やフライパンのコーティング、撥水スプレーなどに広く使われてきた。分解されにくく、自然界にいつまでも残留するため「永遠の化学物質」と呼ばれる。詳細は後述するが、発がん性リスクがあり、人体への有害性が長く指摘されてきた。
このPFASに関連し、今年8月、大規模な血液検査の結果が公表された。摂津市民を含む大阪府、兵庫県の住人1190人を対象に実施されたPFASの血中濃度の調査だ。
米国の学術機関が定めている血中濃度の基準値は、「血液1ミリリットルあたり20ナノグラム(20 ng/mL)」。ところが、調査結果によると、検査を受けた住人の3割以上が米国の基準値を超えた。「32.2ng/mL」の値が出た摂津市在住の男性(81)が語る。
「摂津には1970年代から住んでいます。検査で値が高かったから、PFAS外来を受けに行ってね。エコー検査を受けたら、甲状腺に20mmぐらいの腫瘍ができていると。結果としては良性でしたが、ちょっと体調が悪いとPFASのせいかと思ってしまいますね」
摂津市に60年以上住む福井香苗さん(77)は、血中濃度が「30.2ng/mL」と米国の基準を超過した。
「私もPFAS外来でエコー検査を受けたら、甲状腺に黒い点があって。これだけでは分からないから、1年後に検査しますと言われた。原因の究明を早くしてほしい」
別の摂津市在住の男性(73)は、PFASの血中濃度に加えてコレステロール値も高かった。この検査で血液を分析したPFAS研究の第一人者で、京都大学大学院医学研究科の原田浩二准教授(環境衛生学)が指摘する。
「健康リスクの調査はこれからで、まだ因果関係を断定することはできません。ただし、摂津市民の血液検査では、他地域に比べてPFASの一種であるPFOAの平均数値が高く、他地域より5~10倍高い人もいました。健康への影響が出る可能性はあるでしょう」
「水道水の水源地が含まれている」
PFASによる健康への影響は国内では認められた事例がないが、海外では裁判で認定された事例もあり、各機関が警鐘を鳴らしている。世界保健機関(WHO)の専門組織・国際がん研究機関(IARC)は、PFASの一種であるPFOAとPFOSの「発がん性」を指摘した。
昨年12月、IARCが4段階で定める発がん性分類で、PFOAを最上位の「グループ1(ヒトに対して発がん性がある)」に指定。さらにPFOSも「グループ2B(ヒトに対して発がん性がある可能性がある)」に位置づけた。原田准教授が説明する。
「2013年に発表された米国のPFAS汚染地域の周辺住民6万9000人を対象とした調査では、PFASのうちPFOAの血中濃度を調べて住民を4グループに分けた結果、最も高いグループは最も低いグループに比べて腎臓がんの発症リスクが1.58倍、精巣がんは3.17倍に上昇していました。他にもPFASが関連する症状として、コレステロール値の上昇などの脂質異常症や、潰瘍性大腸炎、胎児や乳児の発育の低下、甲状腺疾患などが指摘されています」