「マイナ保険証」への本格移行(従来の健康保険証の新規発行停止)となった12月2日、各地で混乱が起きた。巨額の国費を投じたマイナ保険証だが、巧妙にも、トラブルが続けば続くほど予算が投入される構図になっているのだ。果たして、移行によるメリットがあるのは、国民ではなく誰だったのか。【前後編の前編】
医療機関の窓口では、本格移行前からトラブルが多発していた。東京・江戸川区の松江歯科医院の扇山隆・院長はその対応に追われている1人だ。
「トラブルで一番多いのは“黒丸”。患者さんがマイナ保険証をカードリーダーに置いて読み取った時、パソコンの画面に出る本人情報の名前に『●』が出る。本来、これでは正しい本人情報ではないから保険証として不備がある。
最初は、患者さんに紙の保険証を持って来ているか聞いて、なければ免許証などを見せてもらったり、本人に名前を確認していたが、あまりに多いので初診の患者さん以外は柔軟に対応することにしています。詳しいことはわかりませんが、戸籍謄本のデータ化などの問題ですぐには解消できないそうで、国もしばらくこのままの対応でいくと聞いています」
次に多いのがカードリーダーの認証エラー。回線接続の不備や回線の渋滞などが原因だ。「資格情報が無効」もある。転職や引っ越しで個人データが変わったのにマイナ保険証に反映されていないケースだ。マイナカードの電子証明の期限は5年で、それを過ぎれば役所に行って更新の手続きをしなければならない。それを知らずにマイナ保険証が「有効期限切れ」となり、使えない人も少なくない。
トラブル続出に困った扇山院長は12月2日以降、待合室に〈紙の保険証は使えます〉という張り紙を出すことにしたという。