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大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

日本被団協のノーベル平和賞受賞を機に「日本も核禁条約批准に踏み切るべき」 大前研一氏が考える「核なき世界」への道のり

「核なき世界」実現のため日本ができることは(イラスト/井川泰年)

「核なき世界」実現のため日本ができることは(イラスト/井川泰年)

 今年のノーベル平和賞に広島と長崎の被爆者による「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」が選ばれた。経営コンサルタントの大前研一氏は「今回の日本被団協のノーベル平和賞受賞を機に、日本は核兵器禁止条約(核禁条約)の署名・批准へと歩を進めるべきだろう」と言う。日本の周辺国に核保有国も多い中、「核廃絶」をどう進めていけばよいのか。大前氏が提言する。

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 日本の隣には中国、ロシア、北朝鮮という核保有国が並んでいる。いずれも最高指導者は、核攻撃に踏み切りかねない暴君だ。

 一方、アメリカの核抑止力というが、もし日本の領土・領海に核爆弾が撃ち込まれても、核のボタンを握る米軍の最高司令官=トランプ次期大統領が守ってくれる保証はない。「保証が欲しければ、もっとアメリカの兵器を買え」とお得意のディール(取引)を持ちかけてくる可能性もあるが、それに応じてもトランプ次期大統領が本気で日本を守るとは限らないだろう。

 そもそも、佐藤栄作元首相が打ち出した核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」の「非核三原則」はレトリックだ。これが評価されて佐藤元首相は1974年にノーベル平和賞を受賞したわけだが、日本に寄港した米軍の艦船がアメリカ出航時に積んでいた核兵器を途中でどこかに置いてくることはあり得ない。所詮“お題目”なのだから、日本は核禁条約批准に踏みきり、「核廃絶は日本国民の悲願だ」と訴えた上で、「米軍は必ず日本を守る」と保証するように日米安全保障条約を改定すべきである。

 在日米軍の日本国内における特権を定めた不平等な日米地位協定も当然、見直さなければならない。そのウルトラCの手段は、石破首相が提唱しているアジア版NATO創設ではなく、既存のNATOへの加盟である。日本は「北大西洋」に面してはいないが、ロシアを仮想敵とする点は同じだし、資金と兵力と技術を供与すると言えば、イギリスやドイツ、親日国のトルコなどは大賛成するだろう。

 NATOでは、かつて日本と同じ枢軸国だったドイツやイタリアは自国の法律や規則を米軍にも適用して活動をコントロールしているので、日本もNATOに加盟して同様の権利を得れば、米兵の犯罪や米軍基地があるために不便な空域の問題などの不平等な規定を解消することができるのだ。

「核なき世界」への道は途方もなく遠い。現状では実現はまず無理だが、それでも唯一の戦争被爆国であり、アメリカに原爆を落とされて21万人以上(後遺症による死者を含めると約52万人)もの夥しい犠牲者を出した日本にとって、核廃絶は諦めてはいけない責務なのだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。話題の最新刊『新版 第4の波』(小学館新書)など著書多数。

※週刊ポスト2024年12月20日号

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