しかし、大企業の経営統合は簡単ではない。業界は違うものの、サントリーホールディングスとキリンホールディングス、三菱重工業と日立製作所は経営統合交渉していることが報じられ、交渉していたことは紛れもない事実だったが、最終的には破談となった。
社風の違いや、重複する生産・販売拠点の最適化など話し合うべき課題は多く、面子にかけて譲れない点もある。日産とホンダは社風も全く違う。
労働組合に経営が支配されたり、ゴーン事件が起こったりと、「技術の日産」と言いながらも社内権力闘争が起こりがちな日産と、自動車レースの最高峰「F1」に参戦するなど「夢」を大事にしてきたホンダを見ればそれが一目瞭然だ。
加えて両社は長年、激しい競合関係にあった。特に両社が収益源とする北米市場では競い合ってきた。統合交渉では北米での商品や生産拠点の重複問題は大きなテーマになると見られる。
2019年頃から筆者は、絶対的に強いトヨタグループ以外に、もう一軸を国内企業で作ることが国内の産業基盤の強化につながると考え、「日産とホンダは手を組むべきだ」との論陣を張ってきた。誰よりも深く両社を観察してきたとの自負がある。そうした立場から見ても資本提携に行きつくには、あと1年くらいはかかるのではないかと思う。8月に協業を発表した後にそう感じた。
■特集全文公開:ホンダ&日産が経営統合へ、巨大連合“誕生”の裏で起きていた内幕 水面下で蠢いた“台湾の巨大企業”と日産“元ナンバー3”の逆襲
【プロフィール】
井上久男(いのうえ・ひさお)/1964年生まれ。ジャーナリスト。大手電機メーカー勤務を経て、朝日新聞社に入社。経済部記者として自動車や電機産業を担当。2004年に独立、フリージャーナリストに。主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』などがある。
※週刊ポスト2025年1月17・24日号