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中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

「帰国しないでもう少し寿司屋のバイトを続けます」語学留学でオーストラリアに行った女性の選択が象徴する“日本の国力低下”と“若者の海外流出”加速の懸念

2008年末の「年越し派遣村」の様子(AFP=時事)

2008年末の「年越し派遣村」の様子(AFP=時事)

3ヶ月バイトを続けるだけで234万円の収入に

 何があっても日本はすごい、と思い続けるそのメンタリティというか、意地には感心するものの、次の話を聞いて複雑な気持ちになりました。私の知人の娘さんは現在20歳の大学生ですが、1年間オーストラリアに語学留学に行きました。学校は9ヶ月間のため、その段階で帰ってきてもいいのですが、3ヶ月間残ることにしたのです。

 理由は、ワーキングホリデーで働く寿司屋でドリンクを作る彼女の時給が3000円だからだと言います。しかも賄いがつく。仮に1日10時間、週6日働いた場合、1週間で18万円の収入になります。3ヶ月を13週間としたら、234万円の収入になります。なんと寿司屋のバイトを続けているだけで年収900万円以上になるのです。これは約6万米ドル。

 ここで得意の「オーストラリアは物価が高いからだ!」攻撃をする人もいるかもしれませんが、自炊をすればそこまで高くありません。しかも、彼女は学校から遠いホストファミリーの家に住んでいるためホンダの中古車を50万円で購入しましたが、下取りに出す際、同様の価格で売れるとのこと。数ヶ月でも多く外貨を稼ぎ、日本での生活をラクにしようと考えているわけです。

 同じことを考える日本人の若者が増えれば増えるほど、ワーキングホリデーを使ってオーストラリアやニュージーランドやカナダで働き、当地で節約生活をしてカネを貯める。英語も上達し、現地で恋人ができようものなら、あちらの国籍を取り、若者の海外流出が進む可能性があります。そう、日本の地方都市が軒並み首都圏をはじめとする大都市に若者を取られ、人口減少が起き平均年齢が上がるのと同じ現象が、日本全体で発生するかもしれません。

 年初から暗い話になりましたが、2008年の「年越し派遣村」の時以上に現状は悪化しているといえましょう。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。

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