アメリカの鉄鋼業界から競争が消える
そもそも、この買収阻止は日本ではなくアメリカにとって打撃となるはずだ。
日鉄の買収阻止に動いたクリフスのゴンカルベス氏は、成功のためには手段を厭わない鉄鋼界のイーロン・マスクの異名を持つブラジル出身のやり手だ。2014年のトップ就任時に46億ドルだった売上高を230億ドル(2022年度)に、83億ドルの赤字だった損益を14億ドルの黒字にまで好転させている。
ただ、その手段は国内企業の相次ぐ買収による規模拡大で、その強引な姿勢にはアメリカ国内からでさえ批判がある。日鉄の6日の発表によれば、ゴンカルベス氏は今回の日鉄の買収阻止の帰結としてクリフスが特定の電磁鋼板の唯一の供給者となる旨を強調し、「価格引上げを行うのです。それ以上行けなくなるまで行きます」と発言したという。
独占による恩恵をクリフスは受けるだろうが、競争が失われることで打撃を受けるのはほかならぬ、アメリカの消費者であり、日米関係そのものだ。
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