「詐欺的」「嘘」…日鉄が異例の強い言葉で応戦
さらに日鉄の発表資料によれば、クリフスの出身でもあるUSW会長のマッコール氏は、2024年2月の電話インタビューで「本買収(日鉄による買収)を潰したい」と公言。日鉄側が送った買収後の雇用維持の提案も「空約束だ」とつっぱねるなど聞く耳を持たない姿勢を貫いてきた。2024年4月のバイデン氏による「USスチールは完全に米国企業であり、米国人が所有し、米国の鉄鋼労働者が運営する米国企業であり続けるべきだ」という発言を引き出したのだ。
こうしたゴンカルベス、マッコール両氏の姿勢について日鉄は、「CFIUSの審査結果やバイデン大統領の本買収阻止の決定に不当な影響を与えるため、虚偽または詐欺的な発言を行った」と激しい言葉で非難している。
官僚的な体質から「日本の鉄鋼庁」と揶揄されもしてきた日本製鉄から「詐欺的」「嘘」といった強い言葉で構えるファイティングポーズが示されることは異例だ。提訴を受けマッコール氏は「(日本には)中国以上に有害なダンピングの歴史がある」と反論する声明を出したが、現在の鉄鋼価格の低迷の原因は市場の5割を占める中国勢の攻勢によって引き起こされている。中国と同盟国の日本を混同する、かなり不可解な弁明に終始するのは、「大人しく引き下がる日本人」像を抱いてきたがゆえの戸惑いの裏返しではないかとすら思える。
確かに、そもそもUSスチール買収という決断自体が、これまでの日本の鉄鋼業では考えられなかったことなのだ。
かねてから世界の鉄鋼業には、欧州の鉄は欧州の企業が、アジアの鉄はアジアからといった大まかな棲み分けがあり、日本でも、国家的産業と結びつく性格から、国内でつくった粗鋼を加工して海外に輸出することをスタンダードとしてきた。2019年にトップに着任後、新風を吹き込んだのが橋本氏だ。