高級中華に引けを取らない
「三幸園」との付き合いも長い。フリーライターになってからは雑誌編集部を訪ねるために神保町へ足を運んだ。30年前というと、メールのない時代。必ず編集者に会って打ち合わせをし、原稿のやり取りには、ファックスを使った。これでOKとなった原稿のデータを、フロッピーディスクに保存して編集部まで届けたりしていた。
その合間合間で、小腹を減らすと立ち寄っていた店のひとつが三幸園だった。当時から、昼下がりとか、夜、まだ早い時間にひとりで寄ってはチャーハンや野菜炒めなどを食べ、気持ちにも懐にも余裕のあるときは、ビールを飲んだりした。
それから四半世紀以上の月日が流れ、私は還暦過ぎてなお、昼から酒を飲むライターとしてこの界隈をふらふらしている。
まず頼むのは餃子とビールだ。ふっくらとしたオーソドックスな餃子は、醤油、酢、ラー油を混ぜた小皿にちょいとつけるのが好きだ。野菜の甘みが口の中で広がる軽くて幸せな味わいは、昼下がりの生ビールにちょうどいい。
数ある町中華の中で、こちらの餃子がいちばん好きだというケンちゃんによると、三幸園は、某サイトの「餃子100名店」に名を連ねたこともあり、常に店頭に行列ができているという。言われてみれば、秋の神保町ブックフェスに、私がかつて友人たちとつくった「酒とつまみ」のバックナンバーを売るワゴンを出すとき、三幸園で一杯やろうと店へ向かったのに、すぐに入れなかったりする。
ケンちゃんいわく、三幸園の開業は1956年。昭和でいうと31年。私が生まれる7年も前である。この日私たちは2階へ上がったが、1階に席が取れた場合は、厨房で威勢よく中華鍋を振る調理の音風景も、楽しみのひとつにしてきた。町中華と言うけれど、八宝菜やエビチリなど、各種のメニューは、いわゆる高級中華料理店に引けを取らないと思う。