ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏
所得税も相続税も法人税も廃止して「資産税」を導入
さらに言えば、かねて私が抜本的な税制改正として提唱している「資産税」を導入し、所得税も相続税も法人税も廃止すべきである。資産税は、個人と企業が保有している預貯金や不動産などすべての資産に毎年、一律1%課税するものだ。
個人金融資産は昨年9月末時点で2179兆円に達し、企業の内部留保(利益剰余金)は2023年度末に600兆9857億円となった。日本の不動産の資産総額は2800兆円くらいなので、企業の内部留保から運転資本(生産や在庫など事業活動を営むために必要な資金)を除いても、金融資産と不動産の合計は5000兆円を超える。それに1%を課せば、50兆円以上の税収が得られるのだ。
2023年度の国の税収は72兆円で、そのうち消費税収が23兆円だったから、資産税の50兆円余と合わせれば、この2つだけで事足りる。つまり、資産税を導入すれば、所得税や相続税、法人税など他の税金はすべて廃止できるのだ。
資産税導入と相続税廃止のメリットは大きい。今は多くの資産を持っている人でも将来への漠たる不安からお金を使わないが、資産に課税されるとなれば不要な資産を売り払い、そのお金でもっと人生を謳歌しようという発想になるはずだ。また、相続税が廃止されたら富裕層は海外に移住する必要がなくなり、国内でお金を使うだろう。
30年以上も給料が上がらない一方で個人金融資産が増え続けている日本の場合、フロー(所得)よりストック(資産)に課税するほうが理にかなっている。莫大な資産を持っている三木谷氏は資産税導入に同意できないかもしれないが、一律1%なら公平だし、相続税廃止とセットであれば文句は言えないだろう。
日本マクドナルド創業者の藤田田さんは「棺桶に入って札束を詰めてみたら、3億円しか入らなかった」と呵呵大笑した。あの世に資産は持っていけないのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『新版 第4の波』(小学館親書)など著書多数。
※週刊ポスト2025年2月7日号
『新版 第4の波』(小学館親書)