とはいえ、トランプが、女性やイスラム教徒や戦争状態にあるわけでもない他国民を公然と罵倒したことは紛れもない事実であろう。そういう人物が先進国の大統領や首相の座に就くことは極めて珍しい。というか、トランプの他にはヒトラーくらいしか例を思いつかない。
ただし、よく考えてみれば、そういう人物そのものは決して珍しいわけではないのである。自国の産物や慣習をやたらと称揚する輩や、外国人をこきおろして得意満面な顔をする者は、身近なところにも我が国の政界にも、いくらでも思い当たる。
むしろ、いたって平凡な、ありふれた感性というべきであろう。
1946年にニューヨーク市の郊外に生まれたトランプは、ほぼ白人のみから成る男尊女卑のアメリカ社会で育ったことに、注意を促したい。私たち日本人は誤解しがちであるが、1965年に移民法が改正される以前のアメリカは、今日のように多種多様な移民を広範に受け入れてはいなかった。また、アメリカの名門大学はもともと男子校ばかりである。
ハーバードを例に取れば、1977年にラドクリフ女子大と合併して共学となった。アメリカを「ふたたび」偉大にするというトランプのスローガンの真意は、おそらく、経済成長の数値を高めることにはない。古き良きアメリカ、白人中心の男性社会への懐古ではないか。